兵庫県独自の事業性評価ツール『技術・経営力評価報告書』とはどんなもの?|金融機関活用メリットなどの基礎知識を完全網羅版

兵庫県独自の事業性評価ツール『技術・経営力評価報告書』とはどんなもの?|金融機関活用メリットなどの基礎知識を完全網羅版

兵庫県における中小企業の事業活動を多角的に支援するツールとして、「ひょうご中小企業技術・経営力評価制度」が存在する。本制度は、単なる財務状況だけでなく、企業の持つ技術力、製品・サービスの競争力、将来性、そして経営体制までを総合的に評価し、「技術・経営力評価報告書」として発行するものである。今回は、この評価制度とその中核をなす評価報告書について、その目的、内容、活用方法、実績などを詳細に調査して分析するものである。

技術・経営力評価制度の目的と意義

本制度の根幹にある目的は、兵庫県内の中小企業の持続的な成長を支援することにある 1。具体的には、公益財団法人ひょうご産業活性化センター(以下、センター)が、専門家の視点から企業の技術力、ノウハウ、製品・サービスの質、市場での成長性、さらには経営力全体を評価した「技術・経営力評価報告書」を発行する 1。この評価書は、企業が自社の価値を客観的に把握し、取引先や金融機関に対して効果的にアピールするための強力なツールとなる 1

特に、優れた技術や事業ポテンシャルを有しながらも、不動産などの物的担保や保証が不足しているために、必要な資金調達に困難を抱える中小企業にとって、本制度は重要な意味を持つ 5。評価書によって企業の「見えざる資産」とも言える技術力や将来性が可視化され、金融機関が融資判断を行う際の有力な参考資料となり、円滑な資金調達を促進する役割を担う 2

さらに、評価プロセスを通じて企業の強みだけでなく、弱みや経営上の課題も明確になる 2。これにより、企業は自社の現状を客観的に認識し、具体的な事業改善に向けたヒントを得ることができる 2。センターや関連支援機関は、評価書で明らかになった課題解決に向けて、専門家派遣などの支援メニューを提供し、中小企業の経営改善を後押しする体制を整えている 2

本制度は、平成17年(2005年)6月に「ひょうご中小企業技術評価制度」として発足し、当初は技術力評価に重点が置かれていた 7。その後、平成24年度(2012年度)に現在の「ひょうご中小企業技術・経営力評価制度」へと名称変更され、経営力を含むより総合的な評価へと進化した 7。この変遷は、単に技術を評価するだけでなく、事業全体の持続可能性や成長性を重視する、近年の金融機関における「事業性評価」の流れとも軌を一にするものである。すなわち、本制度は、客観的な評価を求める中小企業と、財務諸表だけでは捉えきれない企業の実態や将来性を評価したい金融機関との間のニーズを結びつける、戦略的な橋渡し役として機能していると言える。

技術・経営力評価制度の実施機関

本制度の運営・実施は、公益財団法人ひょうご産業活性化センターが担っている 1。センター内の担当部署は成長支援課である 4

技術・経営力評価制度の対象となる利用者

本制度を利用できるのは、主に以下の者である。

  • 兵庫県内に事業所を有する中小企業: 信用保証協会の保証対象業種に属し、原則として創業後1年以上の事業実績がある中小企業が対象となる 2
  • 金融機関: 中小企業への融資判断や取引先支援の目的で、本制度を利用(申請)することが可能である 2
目次

技術・経営力評価報告書の詳細分析

「技術・経営力評価報告書」は、本制度の中核をなす成果物であり、企業の多面的な実力を示す詳細な分析結果が記載される。

技術・経営力評価報告書の構成と主要項目

評価報告書の具体的な構成は、公開されているサンプル 13 によると、概ね以下のようになっている。

  1. 表紙: 受付番号、企業名、ヒアリング日時、発行機関(センター)、発行年月日等が記載される。評価結果が融資を保証するものではない旨等の注意書きも含まれる。
  2. 目次と評価内容: 報告書全体の構成と、各評価項目の視点が簡潔に示される。
  3. 評価対象企業・事業の概要: 企業の基本情報(会社名、代表者、所在地、設立年月、資本金、従業員数、連絡先、URL)、直近3期分の決算概要(売上高、税引後利益)、主要株主、業種、主要取引先(販売先・仕入先と構成比)、事業概要、評価対象事業、評価を受ける目的などが記載される。
  4. 技術・経営力評価結果: 各評価項目に関する具体的な評価コメントと評価点数が記載される、報告書の中心部分。
  5. レーダーチャート: 各評価項目の点数を視覚的に表示し、企業の強み・弱みを一目で把握できるようにする。
  6. 課題と問題点: 評価を通じて明らかになった経営上の課題や改善点、今後の事業活動への提言などが具体的に記述される。
  7. 総合評価: 技術面と全体的な事業可能性の両面から、段階評価とコメントで総括的な評価が示される。

この報告書は、単なる技術評価にとどまらず、将来性や経営力を含む「総合的な事業評価」を提供するものとして設計されている 。

技術・経営力評価の詳細な評価項目と評価視点

評価は、大きく4つの視点に分類される10の項目について行われる 3。各項目とその主な評価視点を以下に示す。

表1: ひょうご中小企業技術・経営力評価制度 評価項目と主な視点

評価視点評価項目主な評価内容
(1) 製(商)品・サービス1. 新規性・独創性技術・ノウハウ、製品・サービス、ビジネスモデル等の新規性・独創性(学術的観点ではなく事業的観点から評価)
2. 優位性とその維持継続競合に対する優位性(技術力、営業力、ブランド力、知財等)とその維持継続の可能性、外部資源の活用状況
(2) 市場性・将来性3. 市場規模・成長性対象市場の規模(潜在規模含む)、安定性、成長性、法規制の影響、代替品の可能性
4. 競合関係競合企業の状況、自社のポジション、競争力、製品ライフサイクル、新規参入・撤退動向
(3) 実現性・収益性5. 販売方法・販売価格マーケティング計画、販売チャネル、販売方法、価格政策、競合との差別化
6. 生産・サービス体制施設・設備の整備状況、運営管理(計画、実行、品質管理、顧客対応等)、公的認証(ISO等)、改善活動
7. 売上高・利益計画今後数年間の計画の具体性・実現可能性、採算性、他計画との整合性
8. 資金計画・資金調達力売上・利益計画達成のための資金計画の妥当性、事業有望性や技術優位性等を踏まえた資金調達力
(4) 経営力9. 事業遂行能力経営者の先見性、意思決定力、リーダーシップ、後継者育成
10. 人材・組織体制事業遂行に必要な人材確保、組織運営の円滑性、教育訓練・資格取得、IT活用状況

この詳細な評価項目リストは、企業が評価に臨む際の準備や、金融機関が報告書を解釈する上での重要なガイドとなる。

技術・経営力評価の方法論

評価プロセスは、客観性と専門性を担保するように設計されている。

  • 専門家による評価: 評価対象企業の業種に応じた専門家(中小企業診断士、技術士等)が、申請企業を訪問し、経営者等へのヒアリング(現地ヒアリング)を実施する 2。これにより、書面だけでは分からない実態や経営者の考え方を深く理解する。
  • 第三者委員会による審査: 専門家が作成した評価書原案は、センターに設置された「技術評価支援委員会」で内容が審議され、最終的な評価が決定される 2。このプロセスにより、評価の公平性、公正性、客観性が担保される 2
  • 段階評価とコメント: 上記の10項目それぞれについて、5段階(1~5点、5点が最高)の評点が付与されるとともに、具体的な状況や評価理由を示すコメントが記述される 2
  • 総合評価: 個別項目の評価に加え、「技術評価」(項目(1)の1・2、(2)の1・2、(3)の1・2の計6項目を総合)と「全体評価」(全項目を総合)の2つの総合評価が示される 7。これらも5段階評価であるが、さらに「+(プラス)」「フラット」「-(マイナス)」のいずれかが付加され、より nuanced な評価レベル(例:3+、3フラット、3-)が示される 7
  • 課題指摘と改善提案: 評価書には、評点や強みだけでなく、企業が抱える問題点や改善すべき点についての具体的なコメントも明記される 2。これは、評価を単なる格付けに終わらせず、企業の成長・改善に繋げることを意図したものである。

この評価プロセス全体を通じて、専門家の知見と標準化された枠組み、そして段階的かつ詳細な評価表現を組み合わせることで、信頼性が高く、かつ実用的な評価報告書の作成を目指している。単なるスコアではなく、企業の戦略的意思決定や金融機関との対話に資する具体的な情報を提供することに重きが置かれている点が特徴である。

技術・経営力評価の申請手続きと費用

本制度の利用を希望する中小企業や金融機関は、所定の手続きを経て申請を行う。利用しやすいように複数の申請方法や費用負担軽減措置が設けられている。

技術・経営力評価の申請方法

申請には、以下の3つの方式がある 2

  • A方式: 中小企業がセンターへ直接申請する。
  • B方式: 中小企業が取引金融機関を経由してセンターへ申請する。
  • C方式: 金融機関が、対象となる中小企業の同意を得た上でセンターへ申請する。

これらの複数の経路は、中小企業が主体的に利用できるだけでなく、金融機関が取引先支援の一環として活用することも促しており、制度の普及と利用促進を図る意図がうかがえる。

技術・経営力評価の必要書類

申請に必要な書類は、申請方式によって若干異なるが、主に以下のものが求められる 2

  • 評価書発行依頼申請書(A, B, C方式それぞれに様式あり)
  • 評価書発行依頼申請書添付資料(事業内容、技術・製品、市場、計画等を記述)
  • 財務状況に関する資料(Excel様式あり)
  • 情報の提供等に関する同意書(法人用、個人用あり)
  • 直近3期分の決算書(写し)
  • その他補足説明資料(会社案内、製品カタログ、写真等)

各種申請様式(WORD, EXCEL形式)はセンターのウェブサイトからダウンロード可能である 2

技術・経営力評価の評価書発行までの期間

標準評価型、オーダーメイド型いずれの場合も、専門家による現地ヒアリング実施後、約1か月で評価書が発行されるのが標準的な所要期間である 2

技術・経営力評価の費用体系と補助制度

評価には、ヒアリングを行う専門家の人数に応じて2つのタイプがある 2

  • 標準評価型: 専門家1名によるヒアリング。
    • 評価手数料(総額): 105,000円
    • センターによる補助額: 35,000円
    • 申請者負担額: 70,000円
  • オーダーメイド型: 専門家2名によるヒアリング。より多角的な視点や専門分野での評価が必要な場合に選択される。
    • 評価手数料(総額): 210,000円
    • センターによる補助額: 70,000円
    • 申請者負担額: 140,000円

(注記: 過去には手数料総額や補助率が異なっていた時期もある 3。上記は 2 に基づく最新の情報である。)

センターによる補助(手数料総額の約1/3を負担)により、申請者の費用負担は大幅に軽減されている。さらに、一部の金融機関では、取引先企業が本制度を利用する際に、残りの費用の一部または全額を負担する独自の支援制度を設けている場合がある 3。例えば、尼崎信用金庫では、一定条件を満たせば、標準評価型の申請者負担額を金庫が負担し、実質無料で評価書を取得できる制度を導入している 3

このように、複数の申請ルートの提供と、公的機関(センター)および一部金融機関による費用補助は、中小企業や金融機関にとって本制度利用のハードルを下げ、その活用を積極的に奨励する政策的な意図を明確に示している。

技術・経営力評価書のメリットと戦略的活用

技術・経営力評価報告書は、中小企業と金融機関の双方にとって、多様なメリットをもたらし、戦略的な活用が可能である。

技術・経営力評価の中小企業にとってのメリット

中小企業は、評価報告書を通じて以下のような利点を得ることができる。

  • 内部的な活用:
    • 客観的な自己分析: 第三者の専門的な視点から、自社の強みと弱みを客観的に把握できる 2。これは、経営資源の「棚卸し」を行い、現状を正確に認識する上で有効である 3
    • 経営改善の促進: 報告書で指摘された課題や改善点に基づき、具体的な事業改善の方向性を見出すヒントが得られる 2。事業の方向性を再確認し、中長期的な経営戦略を検討する材料ともなる 2。例えば、三ツ星製作株式会社は、評価を機に売上高に対する製造人員の比率という弱みを認識し、高付加価値業務への挑戦という新たな目標を設定した 15。また、寺本運輸倉庫株式会社は、報告書を自社の現状確認と組織づくりの指針として活用した 16
    • 従業員の意欲向上: 自社の技術や取り組みが客観的に評価されることで、開発担当者をはじめとする従業員の自信やモチベーション向上に繋がる可能性がある 3
  • 外部的な活用:
    • 信用力向上とPR: 取引先や金融機関に対し、自社の技術力、製品・サービスの優位性、将来性を客観的なデータに基づいてアピールできる 1。これは、公的な第三者機関による「お墨付き」として機能し、企業の信頼性を高める 2。評価結果に基づき「優良企業」として認定される場合もあり、これは強力なPR材料となる 1
    • 資金調達の円滑化: 金融機関が融資判断を行う際の重要な参考資料となる 2。特に、従来の担保や保証に過度に依存しない融資(事業性評価に基づく融資)を引き出す上で有効であり 3、融資審査の迅速化に繋がる可能性もある 5。株式会社森田工務店は、本制度を活用して資金調達の選択肢を広げた事例として挙げられている 21

技術・経営力評価の金融機関にとってのメリット

金融機関は、評価報告書を以下のように活用することで、融資業務や取引先支援の質を高めることができる。

  • 取引先の詳細な理解: 決算書だけでは分からない取引先の事業内容の実態、技術・製品・サービスの価値、ビジネスモデル、市場での競争力などを深く理解するための客観的な情報を得られる 2。経営者の考え方や事業戦略についても洞察を得ることができる 5
  • 融資判断とリスク評価の高度化: 融資判断の参考資料として活用できる 2。企業の技術力、経営力、知的財産などを活かしたビジネスモデル全体の価値や成長可能性を評価する材料となり、財務データや担保・保証への過度な依存を避けた、より本質的な事業性評価に基づく融資判断を可能にする 3。与信判断における補完材料として機能する 3
  • コンサルティング機能の強化: 報告書によって取引先の経営課題が明確になるため、事業改善に向けた的確なアドバイスや支援策を提案するための基礎資料となる 2。経営者との対話を通じて課題を発見し、改善提案を行うきっかけとなる 7

技術・経営力評価結果と金融インセンティブの連携

評価報告書で一定以上の評価を得ることは、具体的な金融上のメリットに繋がる場合がある。

  • 兵庫県信用保証協会の保証料率割引: 兵庫県信用保証協会が提供する「技術・経営力発展保証『スター』」制度では、本評価制度による総合評価(全体評価)が「2(フラット)」以上であることを利用要件の一つとしており、該当企業は保証料率の軽減措置を受けられる 23。評価報告書の発行日から1年以内のものが有効である 23
  • 連携融資制度: 一部の金融機関では、本評価制度の結果と連携した独自の融資商品を開発・提供している 7。例えば、兵庫県信用組合では「技術・経営力評価融資」を取り扱っている 26
  • その他の優遇措置: 兵庫県の制度融資を利用する際に、本評価を受けていることで保証料が割り引かれる可能性がある 11。また、センターが実施する設備貸与制度において、割賦損料率が引き下げられる場合もある 7

これらの金融インセンティブは、評価を受けることの直接的なメリットを示すものであり、制度利用の動機付けとなっている。

表2: 技術・経営力評価報告書の結果に連動する主な金融インセンティブ

制度名実施機関主な要件メリット
技術・経営力発展保証「スター」兵庫県信用保証協会総合評価(全体評価)が「2(フラット)」以上(発行後1年以内)保証料率の軽減
技術・経営力評価融資兵庫県信用組合本制度の活用(詳細は要確認)独自の融資条件(詳細は要確認)
兵庫県制度融資兵庫県、取扱金融機関、兵庫県信用保証協会本制度の評価を受けていること(詳細は要確認)保証料割引の可能性あり
設備貸与制度ひょうご産業活性化センター一定以上の評価(詳細は要確認)割賦損料率の引き下げの可能性あり

このように、本制度は中小企業にとっては客観的な評価に基づく自己改善、PR、資金調達円滑化の機会を提供し、金融機関にとってはより深い顧客理解に基づく適切な融資判断と効果的な支援を可能にする、相互に利益のある関係性を構築している。これは、情報が対称化され、事業の潜在能力に基づいた資金配分が促進される、より健全な地域金融環境の醸成に寄与するものと考えられる。

技術・経営力評価制度の運用実績とインパクト

ひょうご中小企業技術・経営力評価制度は、発足以来、多くの企業や金融機関に利用され、地域経済において一定の役割を果たしてきた。

技術・経営力評価の運用実績データ

これまでに公開されている情報から、本制度の利用状況に関する主な実績を以下に示す。

  • 評価書発行件数:
    • 平成17年6月~平成28年12月末(累計): 1,152件 7。平成23年度に補助率が引き下げられた影響で一時的に減少したが、その後は増加傾向にあった 7
    • 平成26年度(12月末時点): 77件 14
    • 令和2年度(通期): 104件 27
    • 令和5年度(上半期相当か): 41件 28
    • 年間利用企業数は、概ね70~100社程度とされている 4
  • 関連融資実績:
    • 平成17年6月~平成28年12月末(累計): 評価書を活用した融資(金融機関独自の連携融資含む)は683件、総額181億3,200万円に達した 7
    • 平成26年度(12月末時点): 34件、11億5,800万円 14
    • 兵庫県信用組合「技術・経営力評価融資」(令和3年度か): 5件、9,500万円 26
  • 受賞歴:
    • 全国イノベーション推進機関ネットワーク「地域産業支援プログラム優秀賞」(平成24年/2012年)7
    • 日本弁理士会「知的財産活用賞」(平成26年度)7

これらのデータは、本制度が長年にわたり継続的に利用され、相当数の評価書発行と、それに伴う資金供給に繋がってきたことを示している。

技術・経営力評価の活用事例

実際に本制度を活用した企業の事例からは、その具体的な効果が見て取れる。

  • 株式会社森田工務店(建設業、丹波市): 本制度を利用し、資金調達の選択肢を広げることに成功した 21。これは、評価書が金融機関にとって追加的な信用補完材料となったことを示唆する。
  • 三ツ星製作株式会社(金属切削加工、姫路市): 平成29年(2017年)5月に評価を受け、自社の弱み(製造人員あたり売上高の低さ)を客観的に把握。これを機に、より付加価値の高い仕事への挑戦を決意し、5軸加工機や大型3軸加工機といった設備投資を実行した 15。評価が具体的な経営戦略の見直しと投資判断に繋がった事例である。
  • 寺本運輸倉庫株式会社(運輸・倉庫業、特に危険物): 評価報告書を「自社の現状を確認し、組織づくりの指針とする」ために活用した 16。内部的な組織運営や戦略策定のツールとして役立てたことがうかがえる。
  • その他の企業: 阪神特殊自動車株式会社 1、近畿農産株式会社 17、株式会社イードクトル 18、株式会社ジェイ・ティー 19 など、多くの企業が本制度で「優良企業」として認定され、その評価を対外的に公表している。
  • 金融機関の活用: 尼崎信用金庫 3、兵庫県信用組合 26、但馬銀行 29 など、多くの地域金融機関が本制度の活用や、連携融資商品の提供、利用費用の補助などを通じて、積極的に関与している 2。平成28年末時点で18の金融機関が顧客企業の実態把握や事業性評価に評価書を活用していた 7

これらの実績と事例は、本制度が単なる形式的な評価に留まらず、中小企業の戦略策定、経営改善、資金調達、そして金融機関の融資判断や取引先支援といった実務において、具体的な価値を提供してきたことを裏付けている。制度が地域経済のエコシステムの中に組み込まれ、機能している様子がうかがえる。

兵庫県の技術・経営力評価制度の位置づけ

ひょうご中小企業技術・経営力評価制度は、単独で存在するものではなく、国全体の金融政策の動向や、他の地域での類似の取り組みとの関連性の中で理解する必要がある。

国の「事業性評価」推進との整合性

近年、金融庁をはじめとする国の機関は、金融機関に対し、従来の担保・保証に偏重した融資慣行から脱却し、企業の事業内容や成長可能性を適切に評価する「事業性評価」に基づく融資・支援を推進している 30。これは、企業の財務諸表に表れない技術力、ノウハウ、市場での競争力、経営者の資質といった定性的な情報を重視し、企業の将来キャッシュフロー創出力を見極めようとするアプローチである 21

ひょうご中小企業技術・経営力評価制度は、まさにこの「事業性評価」の考え方を具体化したものと言える。評価項目には、製品・サービスの新規性や優位性、市場性・将来性、経営者の能力、組織体制といった非財務情報が網羅されており 3、金融機関が事業性評価を行う上で必要となる定性情報を、第三者の専門家が体系的に整理・評価した形で提供する 2。これにより、金融機関はより質の高い事業性評価を効率的に行うことが可能となり、結果として、担保力の弱い中小企業への円滑な資金供給が促進される。

また、国が創設を目指している、知的財産を含む無形資産なども含めた事業全体を担保とする「事業成長担保権(企業価値担保権)」のような新しい金融手法においても、事業価値を適切に評価する仕組みが不可欠となる 34。本制度のような取り組みは、こうした将来的な金融環境の変化にも対応しうる基盤を提供するものと考えられる。

他地域における類似制度との比較

兵庫県の制度は、全国的にも先駆的な取り組みであり、他の地域における同様の制度設立に影響を与えてきた 3

  • 広島県: 「広島県中小企業技術・経営力評価制度」が存在する 38。運営は(公財)ひろしま産業振興機構が行い、兵庫県と同様に、財務諸表に表れない技術力、ノウハウ、成長性、経営力等を評価し、PRや資金調達を支援することを目的としている 39。評価結果に基づき「評価優良企業」を認定する点も共通している 40。近年、「成長プラン」策定支援を付加し、評価に基づく具体的な行動計画提案へと機能を拡充している点が特徴的である 47。評価業務の一部を外部専門機関(例:株式会社テクノア)に委託している 42
  • 福岡県: 「福岡県中小企業技術・経営力評価制度」(旧称:フクオカ成長企業評価制度)がある 48。運営は福岡県ベンチャービジネス支援協議会が担う 48。兵庫県と同様に10項目の視点(技術、市場、経営等)から評価を行い、企業の強み・弱みを明確化し、経営改善や資金調達(福岡県の制度融資と連携)、販路拡大等に活用することを目的としている 48。標準型(手数料総額22万円)とシンプル型(同11万円)があり、協議会が費用の2/3を負担する 53。経営戦略策定、問題解決、事業承継への活用も想定されている 53
  • 札幌市: 札幌市には、中小企業診断士による経営相談、専門家派遣、創業者支援、各種補助金など、多様な中小企業支援策が存在する 54。また、中小企業向けの人事評価制度構築に関するセミナーやコンサルティングサービスも提供されている 57。しかし、現時点で入手可能な情報からは、兵庫県、広島県、福岡県のような、公的機関が主体となって技術力・経営力を体系的に評価し、詳細な報告書を発行する形式の制度は確認できない。札幌市の支援は、より一般的な経営相談や個別課題解決、人事制度構築に重点が置かれているように見受けられる。(過去に類似制度導入の言及もあったが 7、現状の詳細は不明。)

これらの比較から、兵庫県の制度は、全国的な事業性評価の流れに沿った先駆的モデルであり、他の先進的な地域でも類似の枠組みが採用されていることがわかる。一方で、その具体的な運営主体や費用体系、付加サービス(成長プラン策定支援など)には地域ごとの特色も見られる。兵庫県の制度は、地域金融機関との連携や、信用保証制度との連動といった点で、地域経済への統合が進んでいる点が特徴と言えるかもしれない。

まとめ:技術・経営力評価制度に関する結論と提言

ひょうご中小企業技術・経営力評価制度は、兵庫県内の中小企業にとって、自社の技術力や経営力を客観的に評価し、その価値を外部に示し、円滑な資金調達や経営改善に繋げるための有効なツールである。発足から十数年を経て、多くの企業や金融機関に利用され、地域経済において確固たる地位を築いている。

本制度の中核である「技術・経営力評価報告書」は、財務情報だけでは捉えきれない企業の強み、弱み、将来性、経営課題を、専門家の視点から多角的に分析・評価する。その内容は、国の推進する「事業性評価」の考え方とも合致しており、金融機関にとっては、より質の高い融資判断や取引先支援を行うための貴重な情報源となる。評価結果が信用保証料の割引など具体的な金融インセンティブに結びついている点も、本制度の実用性を高めている。

【提言】

  • 中小企業に向けて:
    • 本制度を、単なる資金調達の手段としてだけでなく、自社の経営を客観的に見つめ直し、戦略的な改善点を発見するためのツールとして積極的に活用すべきである。特に、評価項目である10の視点について事前に自社内で検討し、ヒアリングに臨むことで、より深い自己分析が可能となる。
    • 評価報告書で指摘された「課題と問題点」を真摯に受け止め、センターや取引金融機関に相談し、具体的な改善行動に繋げることが重要である 2
    • 高い評価を得られた場合は、その結果をウェブサイトや会社案内などで積極的にPRし、企業価値向上や取引拡大に役立てるべきである 1
  • 金融機関に向けて:
    • 技術・経営力評価報告書を、事業性評価における重要な構成要素として、融資判断プロセスに積極的に組み込むべきである。財務データ分析を補完する客観的な定性情報として活用することで、より精度の高い与信判断が可能となる 3
    • 報告書の内容を基に、取引先との対話を深め、経営課題に対する具体的なコンサルティングやソリューション提供に繋げることで、リレーションシップバンキングの機能を強化すべきである 2
    • センターとの連携を強化し、必要に応じて取引先への制度利用推奨や費用補助などを検討することで、地域全体の事業性評価能力向上に貢献すべきである 3

ひょうご中小企業技術・経営力評価制度は、適切に活用されれば、中小企業の成長促進と地域金融の円滑化に大きく貢献しうる可能性を秘めている。関係者各位が本制度の意義と活用方法を深く理解し、積極的に利用していくことが期待される。

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この記事を書いた人

長年大手電機メーカーで培った技術と市場洞察を活かし、中小企業診断士として独立後15年、経営コンサルタントとして成長戦略と課題解決を支援。しかし、事業性評価に基づく資金調達の難しさに課題を感じ、「事業性評価ツールマガジン」を構想。この情報サイトが、中小企業経営者や金融機関、支援者の皆様の未来を拓く一助となれば幸いです。

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