事業性評価ツールマガジンで取り上げる主な事業性評価ツール
このマガジンでは主な事業性評価ツールとして
- 知的資産経営報告書
- ローカルベンチマーク
- 経営デザインシート
- 中小企業技術・経営力評価
の4つを取り上げていくことになります。
目に見えない資産を可視化する「知的資産経営報告書」、ロカベンの名前でおなじみの「ローカルベンチマーク」、中小企業庁が提唱している未来志向の経営計画策定ツールである「経営デザインシート」と、メジャーなラインナップの中でポツンと、兵庫県の一部の方以外には聞きなれないツールがあることにお気づきかと思います。
今回は、中小企業技術・経営力評価とは何ぞやというお話をいたします。
事業性評価ツールの老舗
中小企業技術・経営力評価は現在、以下の都道府県で実施されています。
- ひょうご中小企業技術・経営力評価制度 公益財団法人 ひょうご産業活性化センター
- 広島県中小企業成長プラン策定支援事業 公益財団法人 ひろしま産業振興機構会
- 福岡県中小企業技術・経営力評価制度 福岡県ベンチャービジネス支援協議会
- 札幌市技術・経営力評価制度 詳細不明
- 技術・経営力評価制度 (大阪版) ㈱尼信経営相談所
もともとは兵庫県からスタートし、2013年に広島県、2014年福岡県、2016年札幌市、2017年に大阪版がそれぞれスタートしました。近年、「事業性評価」が中小企業支援や金融取引の世界で注目を集めていますが、ひょうご中小企業技術・経営力評価制度が発足したのは2005年と20年も昔です。
本マガジンで取り上げるツールと比べても、
2005年6月:ひょうご中小企業技術・経営力評価制度 2005年10月:知的資産経営報告書 2016年1月:ローカルベンチマーク 2018年9月:経営デザインシート |
と最も早い段階で制度化されています。
こうして比較すると、「ひょうご中小企業技術・経営力評価制度」は、現代的な“事業性評価”が政策的に広まるより10年以上も前に、すでに制度として確立していたという点で非常に先進的な存在であることが分かります。
ひょうご中小企業技術・経営力評価制度の中身
ひょうご中小企業技術・経営力評価制度では、技術・製品・サービスだけでなく、将来性や経営力を含む総合的な事業評価を行います。以下の10項目について5段階評価し、コメントが示されます。以下は評価書に記載された説明文を抜粋します。
(1) 製(商)品・サ-ビス ① 新規性・独創性 評価対象事業の技術・ノウハウ、製品・サービス、管理運営技術、ビジネスモデルに関する新規性・独創性について評価を行った。ここでの評価は学術的観点でなく事業的観点に基づくものである。 ② 優位性とその維持継続 評価対象事業の競合相手に対する優位性およびその維持継続について評価した。製品・サービスの商品性だけでなく技術力、営業力、ブランド力、知的財産なども対象とし、外部資源の活用なども評価した。 |
(2) 市場性・将来性 ① 市場規模・成長性 対象製品・サービスの市場規模(潜在規模も)、市場安定性(需要変動)・成長性(今後の需要動向)について評価を行った。法令の制定・改正による影響や、代替製品の出現可能性なども考慮の範囲とした。 ② 競合関係 競合企業の状況と当社のポジショニング(業界内地位)、競争力を評価した。製品・サービスの寿命(代替技術による市場変化)や競合条件(新規参入・撤退動向、顧客の動向)も考慮した。 |
(3) 実現性・収益性 ① 販売方法・販売価格 マーケティング計画(販売の基本戦略や実行計画)について、また戦略にもとづく販売チャネル、販売方法、価格政策などについて評価を行った。販売における競合企業との差別化状況も評価の範囲とした。 ② 生産・サービス体制 生産・サービスのための施設装置の整備や運営管理(生産・サービスの計画・実行、品質管理、市場・顧客対応など)について評価を行った。ISOなどの公的認証取得や改善活動の状況なども考慮した。 ③ 売上高・利益計画 今後数年間の売上高・利益にかかるビジョンがあるか、内容が具体的で実現性があるか、採算性はあるかなどの評価を行った。マーケティン グ計画や生産・サービス計画との整合性も評価の対象とした。 ④ 資金計画・資金調達力 売上高・利益計画実現に対する資金計画の妥当性ならびに事業の有望性、技術優位性、信用力などを考慮した資金調達力の評価を行った。 |
(4) 経営力 ① 事業遂行能力 経営者の先見性、意思決定力、リーダーシップ、後継者育成などを考慮して評価を行った。 ② 人材・組織体制 事業遂行のための人材が確保されており、円滑な組織運営ができているか評価した。組織と個人の能力向上のための教育訓練や資格取得に 取り組んでいるか、IT構築が出来ているかも評価した。 |
以下、個人的な補足説明です。
(1) 製(商)品・サ-ビス
(1) 製(商)品・ サ-ビスでは、ビジネスモデルを含めた製(商)品、サ-ビスについて評価を行います。新規性・独創性では現時点でのビジネスモデルを含めた製(商)品、サ-ビスに関して評価します。ただ「学術的観点でなく事業的観点に基づく」とあるように、単に目新しい、独創的であるというだけでは評価に値せず、事業として成り立つものであるかが問われます。
優位性とその維持継続では競合と比較した優位性とその維持継続が問われます。この維持継続という観点は中小零細企業では特に重要です。同業他社と比較して素晴らしい技術の製品を生み出しているが、その製品を作れるのが高齢のベテラン従業員1人しかいないというようなケースがよくあります。
(2) 市場性・将来性
いわゆる外部環境分析の項目です。市場規模・成長性では主に市場や地域全体の需要動向、法規制等の変化、代替品等が検討されます。
そして競合関係では、具体的な競合他社やベンチマークとなる企業と比較した当社の特徴を分析します。
(3) 実現性・収益性
(3) 実現性・収益性の前半では営業と製造(サービス)の提供体制、後半では数字を確認する項目です。
販売方法・販売価格では、売上高を上げるためのマーケティング戦略や販促活動、粗利益を高めるための適切な価格設定をどのように行われているか調査します。
生産・サービス体制では製品生産やサービス提供のための体制や工夫を調査します。
売上高・利益計画については、過去3期の収益性分析を行いその評価を行います。また、経営計画の有無やその運用度合いについても評価します。
資金計画・資金調達力については、過去3期の安全性分析やキャッシュ・フローの状況について評価を行います。
(4) 経営力
(4) 経営力では社内の人に関する項目を評価します。
事業遂行能力は社長を中心に経営陣の状況を評価します。特に昨今は社長の高齢化も進んでいるため、後継者の有無やその人物が大事な視点になります。私見ですが経営者には結果責任がありますので、この項目は会社の業績に一番左右されると思います。
人材・組織体制では従業員や協力業者等の状況を評価します。どのような組織になっているか、年齢層はどうか、業種業態によっては資格者も重要になります。採用・教育・評価・処遇といった項目も評価します。
ひょうご中小企業技術・経営力評価制度の策定プロセス
ひょうご中小企業技術・経営力評価制度の策定プロセスについて、オーソドックスな流れを説明します。
中小企業が直接、もしくは金融機関を通じて評価を申し込みます。申し込み後は、評価を行う専門家(中小企業診断士等)が選ばれ、企業を訪問し2時間程度のヒアリングと見学を行います。
専門家は決算書や企業から預かった資料と、ヒアリング内容や見学時の状況(場合によっては別日に店舗の覆面調査等を行うケースもある)から評価書を作成します。
この評価書をもとに、発行元である公益財団法人 ひょうご産業活性化センターの技術評価支援委員会と専門家が内容を議論して最終的な評価書が発行されます。
ひょうご中小企業技術・経営力評価制度の課題
最後に、個人的に考えるひょうご中小企業技術・経営力評価制度の課題をお話しします。
①用語・評価フレームが製造業寄りである
本制度は「技術評価制度」として2005年にスタートしており、初期の評価基準や用語が製造業向けに設計されています。例えば、「技術の独自性」「試作・開発力」「設備保有状況」など、非製造業にとって馴染みの薄い項目が散見されます。制度名に「技術」が残っていることも、対象業種を狭く誤解させやすいと思います。
②ヒアリングが1回のみで、評価の品質にばらつきが出やすい
現在の標準的なプロセスでは、専門家1名が1回の訪問で評価書を作成するため、評価者の力量・経験に大きく左右されます。また、複数回を前提とした評価制度であれば関係性が深まることで会社の本音が引き出せることが多いですが、1回では建前だけになる可能性が高いです。
③企業側へのフィードバック・伴走支援が弱い
評価書は作成された後、企業に発行されて終了という形になります。そのため、評価書を読んだ企業へのアフターフォローが弱いと言わざるを得ません。なお、私が把握している限りですが以下のようにアフターフォローを強化する動きもあります。
広島県中小企業成長プラン策定支援事業では、評価書作成後に専門家が企業を訪問し、評価書の報告会を行います。また、報告会で出た意見を踏まえて成長プランという提案書を策定し、再度専門家が企業を訪問の上、成長プランを説明します。
技術・経営力評価制度 (大阪版) についても、専門家が企業を訪問して評価書の内容を報告するフォローアップ会議を設けています。
④知名度が低い
せっかくの制度ですが、中小企業、金融機関、専門家からの知名度が低いというのが実情です。確かに20年が経過しリニューアルが必要な項目もあるでしょうし、20年の間にたくさんの事業性評価ツールが乱立したことで埋もれてしまった感はあります。
色々と課題を述べましたが、事業性評価という言葉が一般化した今日においても、「ひょうご中小企業技術・経営力評価制度」が20年近く前に掲げた仕組みは、今なお多くの示唆を与えてくれます。
今後、本マガジンでは他の事業性評価ツールとも比較を重ねながら、より実務に活かせる形や支援現場での活用方法を模索し、制度の本質的な価値を再発見していきたいと考えています。