【自己紹介】事業性評価を形式的なものに留まらせたくない

はじめまして。株式会社民安経営 代表取締役、中小企業診断士の冨松 誠(とみまつ まこと)です。

今回、「事業性評価ツールマガジン」に参加させていただくことになりました。

今後ともよろしくお願いいたします。

目次

事業性評価を活用して様々な会社を支援してきました

私はこれまで事業性評価で多くの会社を支援させていただきました。通常、中小企業診断士は専門業種を持ち、その業種に特化するものです。しかし、私がこれまで関与させていただいた業種は、製造業、建設業、卸売業、小売業、飲食業、サービス業と多岐にわたります。

この源泉となったのが、「事業性評価」です。

事業性評価は、財務データだけでなく事業の内容や成長可能性などを評価するもので、財務面を中心とした分析に対して、定性面もしっかりと見ていく評価手法です。

私たちは支援現場で「事業調査」と呼んでいますが、決算書の数値がなぜそのようになったかを定量面と定性面から分析します。社長や従業員ですら気が付いていない傾向や原因を見つけ出し、それを共有し現状への認識を改め、正しい認識に基づいて現場のプロである社長や従業員の知恵を結集し、改善を行ってきました。

私自身は元々税理士事務所に勤めていたこともあり、お会いする中小企業の業種経験は皆無です。付け焼刃の業界知識では、その道何十年の業界人のお役に立てることは難しいと思います。

独立当初、そのように悩んでいたときにある診断士の先輩から次のようなことを教えていただきました。

改善策が出ないのはアイデアの問題ではなく、事業調査が不足しているからだ。事業調査から診断士と社長が「そうだったのか」と気が付けば、現場のプロである社長や従業員から勝手にアイデアが生まれてくる。診断士の理想はこの気付きを与えることであり、「何も教えないコンサル」である。

「何も教えない」域はなかなか難しいですが、過去12年の中にも何度か「そうだったのか」と気が付き、勝手に改善した会社があります。そこまで行かずとも、多くの会社にとっては詳細な事業調査は考え方を変えるきっかけとなり、改善や飛躍につながっています

この背景には、社長やベテラン従業員は現場のプロであるとともに、どれだけ素晴らしい方でも社内の全てを把握することができないことがあります。

中小企業の強みである迅速な意思決定や行動は、社長やベテラン従業員の持つ感覚によって維持されています。専門家が時間をかけて調査した結論と、社長が感覚で短時間のうちに出した結論が一致することはよくあります。

しかし、この感覚が全体の1割~3割ほどズレていることがあります。原因は、情報が古くなっている、好き嫌いで無意識のうちに重視・軽視している、インパクトのある出来事が強烈な記憶となっているなど、様々です。 特に事業再生の局面では、こうしたズレからくる経営判断の誤りが結果として数字を悪くしていることが往々にしてあります。社長やベテラン従業員の感覚を事業調査によってアップデートすることで、正しい前提条件のもとに経営判断、行動ができるようになれば、プロの業界人としての輝きを取り戻します

今の事業性評価は事業実態を把握できるのか

仕事柄たくさんの事業性評価を拝見する機会がありますが、おおよそ事業性評価と呼べる代物ではないというのが正直な感想です。定性情報を重視するのは大事なことですが、「だから何?」というものも多く、社長のヒアリング記事というものも少なくありません。

定性面では、社長は熱心で優れた技術を持ち、従業員の能力も高く、製品は同業他社の製品に比べて優れ、顧客からの信頼は厚い。なのに業績は長年赤字続きというのは一体どういうことなのでしょうか。

定性面が本当に優れているのか裏を取る。定性面は本当に優れているが社内に大きな弱みを抱えておりそれがすべてを台無しにしている。企業の体制に比してあまりにも市場規模が小さすぎて損益分岐点すら確保できていない。

私個人としては、事業性評価ツールは「なぜその業績なのか」が把握できるものでなければならないと考えます。未来に目を向けることは大事ですが、未来は過去、現在の行動の積み重ねの先にあります。

財務の数字はあくまで“結果”であり、その裏にある“理由”を突き止めなければ、改善の糸口も戦略の方向性も定まりません。たとえば、売上が減少している場合、それが市場縮小によるものなのか、営業戦略の不在によるものなのか、価格設定のミスなのか、はたまた社内体制の不備によるものなのか。原因が違えば対策はまるで異なります。

事業性評価ツールは、この原因を特定し、「何を変えるべきか」「何は変えずに磨くべきか」を見極めるための道具です。

私たちのような支援者がこのツールを使いこなすには、表面的な事実を並べるのではなく、“問いを立てる力”が求められます。

  • なぜこの数字になっているのか?
  • なぜこの判断をしたのか?
  • その背景にある思考や状況は何か?

こうした問いを、社長や現場の従業員と対話を通じて深掘りし、事業の構造や論理を可視化することが事業性評価の本質です。事業性評価ツールは、正しく使えば非常に強力な「会社の言語化装置」です。

一方で、形だけのチェックリストになってしまえば、単なる「記録作業」に成り下がります。

だからこそ、私たち支援者の側が、「評価のための評価」で終わらせないよう、使い方の工夫や、社長との対話の質にこだわる必要があります。

「評価項目を埋める」のではなく、「会社の未来のヒントを探す」意識で臨む。

そのために必要な工夫や、実際に役立った視点についても、今後この『事業性評価ツールマガジン』で共有していきたいと思います。

実務の現場に根差した知見を通じて、このマガジンが、支援者、金融機関、そして何より中小企業の社長の皆さまのヒントになれば幸いです。

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この記事を書いた人

中小企業診断士として独立後12年にわたり主として事業再生の現場支援に従事してきました。支援現場では事業性評価ツールが有効に働く一方、形式的な運用で本質を見落とす場面も数多く見てきました。そうした課題を乗り越えるため、現場視点の情報共有を目的に本プロジェクトへの参加を決めました。

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