事業性評価ツールマガジン
2025年5月26日、私たち兵庫県中小企業診断士協会の事業性評価ツール研究会メンバーによる、ある挑戦が本格的に始動したことをご報告いたします。それは、兵庫県の経済を根幹から支える中小企業の皆様の「生産性向上」という重要かつ喫緊の課題解決に向け、地域金融機関との連携強化の観点から焦点を当てる調査研究事業です。
2016年5月、地域金融機関を震撼させる書籍が発行されました。それは、「捨てられる銀行」(著者:橋本卓典氏)です。この書籍の内容は、当時の森信親金融庁長官が地域金融機関の監督方針を「金融機関の健全性」から「企業の経済の成長と資産形成」を重視する方針に舵を切ったことにより、地域金融機関は融資先の経営・コンサルティング支援が求められる時代となり、融資先への経営・コンサルティング支援ができない地域金融機関は必要なくなったのです。近い将来、多くの銀行が捨てられ時代が到来することを警鐘しています。
この「事業性評価ツールマガジン」をお読みの皆様は、日々、経営の最前線で、あるいは企業の伴走者として、真摯に事業と向き合われていることと存じます。私たちは、そんな皆様一人ひとりの努力が、確かな「企業の成長」という果実につながるための羅針盤を創り出したい。その一心で、このプロジェクトを立ち上げました。
今回は、私たちがなぜこの挑戦を始めようと決意したのか、その根底にある想いと、皆様と共に描きたい未来について、お話しさせてください。
なぜ今、「事業性評価」の研究なのか?
現場で感じた深刻な課題意識
「ツールはあるが、活かせない」というジレンマ
「ローカルベンチマーク」「経営デザインシート」「知的資産経営報告書」「技術・経営力評価報告書」――。近年、企業の価値や将来性を評価するための「事業性評価ツール」が数多く提供されています。事業者支援に携わる皆様も、支援先企業にこれらのツールの活用を勧めたり、作成された書類に目を通したりする機会があるかと存じます。
しかし、そのツールが支援先企業の「生産性向上」や「新たな価値創造」にまで、本当に繋がっているでしょうか。活用すべきツールがあるにも関わらず、その価値を十分に引き出せていない、という現実が横たわっています。
現場で聞こえてきた、切実な声
私たち中小企業診断士が日々の支援活動を行う中で、経営者の皆様から次のような切実な声を数多く耳にしてきました。
「多忙な中、書類は作ったが、それで終わりになっている」
「正直、どう経営改善に活かせばいいのか分からない」
「関係者との対話が深まるきっかけになっていない」
よって、ツールを「作成すること」が目的化してしまい、本来の力を発揮できていないのです。この「宝の持ち腐れ」とも言える状況に、私たちは強い問題意識を抱いていました。
問題の本質は「活用の指針」の不足
この問題は、ツールの優劣にあるのではありません。企業が置かれた状況や成長の段階(ライフステージ)に応じて、「どのツールを、どのように組み合わせ、何を目的として活用すべきか」という、私たち支援者側が提示すべき実践的な指針が不足していることこそが、本質的な課題なのです。このままでは、せっかくのツールが企業の可能性を引き出すどころか、現場の負担を増やすことにもなりかねません。この共通課題を解決することが、ひいては地域経済全体の活性化に不可不可欠であると、私たちは考えています。
私たちが目指す壮大な未来
単なる「評価」から、企業の「価値創造」へ
これまでの共通の課題意識に基づき、私たちのプロジェクトでは単なる実態調査に留まらない、3つの具体的なゴールを掲げています。これらは、事業性評価を単なる「評価」から、企業の未来を創る「価値創造」のプロセスへと昇華させるための、重要なステップです。
実態の解明と効果の検証
アンケートやインタビューを通じ、ツールの活用実態と効果を徹底的に検証し、課題の輪郭を正確に捉えます。
実践的ノウハウの体系化
ベテラン診断士の暗黙知を掘り起こし、企業の成長フェーズに応じた「現場起点のモデル」を構築します。
新たな連携モデルの提案
研究成果を基に、金融機関と中小企業、支援機関が一体となる「新たな連携支援」の形を提案します。
目指すは「兵庫モデル」の確立と地域への貢献
この一連の活動が、兵庫県内の中小企業の生産性向上という喫緊の課題解決に貢献でき、地域金融機関との連携強化につながると、私たちは確信しています。そして、将来的にはこの取り組みを、実践的な「兵庫モデル」として確立し、県への政策提言にまで繋げることで、地域経済全体の活性化に寄与したいと考えています。
この挑戦を実現する「チームの覚悟」
強い意志と具体的な行動
責任と覚悟を胸に
この想いを実現するため、多様な専門性を持つ7名の中小企業診断士が集結しました。本事業は、兵庫県中小企業診断士協会の令和7年度調査研究事業として、新規性、効果性、実現性などの厳しい基準による審査を経て、正式に採択されたものです。そして、その活動資金は、会員の皆様からお預かりした貴重な年会費によって賄われています。私たちは、その責任の重さを深く胸に刻み、必ずや皆様のお役に立つ有益な成果を生み出す覚悟です。
すでに行動は始まっている
私たちは机上で議論しているだけではありません。すでに5月から6月にかけて、尼崎、神戸、明石、加古川、姫路、そして但馬地域に至るまで、県内各地の金融機関10箇所以上を訪問し、現場の課題についてヒアリングを開始しています。この「現場主義」こそが、私たちの研究の生命線です。
チーム一丸となって
現在、各メンバーが「ローカルベンチマーク」「経営デザインシート」「知的資産経営報告書」「技術・経営力評価報告書」など、それぞれの専門分野のツールについて深掘り調査を進めています。今後、このマガジンでも各ツールの本質的な価値について解説記事を発信していく予定です。チーム一丸となり、全力でこの挑戦に取り組んでまいります。
金融機関による事業性融資への取組を促す施策の一つとして、企業価値担保権の創設等を内容とする「事業性融資の推進等に関する法律」(以下「事業性融資推進法」)が2024年6月に成立しました。政府は2026年からの運用を目指しています。このような背景をふまえ、「ローカルベンチマーク」「経営デザインシート」「知的資産経営報告書」「技術・経営力評価報告書」を徹底研究することは、事業性評価の本質をとらえることになるのではないでしょうか。
【令和7年度 調査・研究事業 成果報告会】
日時: 2025年11月14日(金) 14:00~16:00
開催会場: 神戸市産業振興センター 会議室802+803
参加費: 無料
参加方法:
- 会場でのリアル参加
- Zoomでのオンライン参加+後日での動画視聴参加
※お申し込み時に、ご希望の参加方法をお選びいただけます。なお、当日発表内容に質問ができるのは、会場参加のみです。また会場参加は席に限り(30名)がございますので、お早めにお申し込みください。
▼成果報告会へのお申し込みはこちら
皆様と会場で、そして画面越しにお会いできることを、チーム一同、心より楽しみにしております。
【令和7年度 調査・研究事業 成果報告会】
- 日時: 2025年11月14日(金) 14:00~16:00
- 開催会場: 神戸市産業振興センター 会議室802+803
- 参加費: 無料
- 参加方法:
- 会場でのリアル参加
- Zoomでのオンライン参加+後日での動画視聴参加
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