第2回:”兵庫モデル”構想!金融機関×支援専門家×行政が”共創”する、全国に先駆ける中小企業支援エコシステム

第2回:”兵庫モデル”構想!金融機関×支援専門家×行政が”共創”する、全国に先駆ける中小企業支援エコシステム

みなさん、こんにちは。事業性評価ツールマガジンのリーダーを務めております西口です。

前回の記事では、2026年5月に迫る「企業価値担保権」という中小企業金融における”革命”と、それがもたらす大きな可能性についてお伝えしました。しかし同時に、私たち兵庫県の金融機関や支援専門家の現場が直面している「時間不足」「スキルギャップ」「本部との乖離」といった深刻な”壁”についても触れ、このままではせっかくの好機を逃しかねないという危機感も共有させていただきました。

そして、これらの課題は個人の努力だけでは解決が難しく、構造的な問題として捉え、地域全体で解決策を模索する必要がある、という結論に至りました。では、その解決策とは具体的に何なのでしょうか? 今回は、その答えとなる「地域全体の連携」を具現化するための、具体的な構想について詳しく見ていきます。

さあ、この大きな課題に、私たちはどう立ち向かうか? その答えを探っていきましょう。

目次

答えは”連携”にある – 金融機関単独では乗り越えられない壁

その答えとは、「連携」です。もっと具体的に言えば、金融機関、中小企業診断士のような外部の専門家、そして行政が、それぞれの強みを持ち寄り、一つのチームとして地域の中小企業を支えていく、という考え方です。

なぜ連携が必要不可欠なのか? 理由は明確です。企業価値担保権を本当に使いこなすためには、これまで以上に高度で、かつ多岐にわたる能力が求められるからです。

  • 「目に見えない価値」を見抜く目: 特許やノウハウ、ブランド力、顧客基盤といった「無形資産」をどう評価し、将来の収益に結びつけるか。これは従来の財務分析とは異なる専門知識が必要です。
  • 未来を描き、伴走する時間と労力: 企業の将来キャッシュフローを予測し、説得力のある事業計画を共に作り上げ、融資後も計画通りに進んでいるかを見守り、時には軌道修正を支援する(=伴走支援)。これには、相当な時間と労力、そして経営に関する深い洞察力が求められます。

日々の融資審査や営業活動に忙しい金融機関の担当者一人ひとりが、これら全てを高いレベルでこなすのは、残念ながら現実的ではありません。得意な分野もあれば、不得手な分野もあるでしょう。時間的な制約も大きい。

だからこそ、それぞれのプロフェッショナルが手を取り合うのです。

  • 金融機関は、資金供給のノウハウ、リスク管理能力、そして何より地域に根差した顧客基盤を持っています。
  • 中小企業診断士は、経営戦略、マーケティング、組織運営など、経営全般に関する幅広い知識と、業種特化型の支援経験、および第三者としての客観的な視点を持っています。
  • 行政は、施策の企画・推進力、関係機関との調整力、そして地域全体の視点を持っています。

これらがバラバラに動くのではなく、一つの目的(=地域の中小企業の成長)のために有機的に結びつく。それぞれの得意分野で力を発揮し、足りない部分を補い合う。まるでオーケストラのように、異なる楽器(専門性)が美しいハーモニー(効果的な支援)を奏でる。

孤軍奮闘の時代は終わり、”共創”の時代へ。 これこそが、企業価値担保権という大きな変化を乗りこなし、兵庫県の未来を切り拓くための鍵なのです。では、この「連携」を具体的にどのような形で実現していくのか? 次のセクションでは、その設計図となる兵庫県への政策提言の中身に迫ります。

では、連携を具体的にどう形にするのか? その答えがここにあります。

兵庫県への羅針盤:「新・中小企業支援『兵庫モデル』の構築」構想

理想的な「連携」の必要性は理解できても、「言うは易く行うは難し」です。具体的に、ここ兵庫県で、どのように金融機関、専門家、行政が手を取り合い、新しい支援の形を創り上げていくのか? その道筋を示す”羅針盤”となるのが、私たち兵庫県中小企業診断士協会が県に対して提案した「新・中小企業支援『兵庫モデル』の構築」構想です。

この提言は、単なるアイデア出しにとどまりません。企業価値担保権という国の大きな動きを、単なる「制度対応」として受け身で捉えるのではなく、むしろこれを絶好の機会と捉え、兵庫県の中小企業支援を全国に先駆けて進化させるための、野心的かつ具体的なアクションプランを描いています。

ここからは、その構想の中核となる部分を詳しくご紹介し、私たち支援者がどのように関わっていくことになるのか、その未来像を共有したいと思います。

構想の核心:新ブランド『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』誕生へ

構想の最も重要な柱、それは兵庫県独自の新しい支援の枠組みとして、『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』という新ブランドを創設することです。

なぜ新しい「ブランド」が必要なのでしょうか? それは、従来の単発的な補助金や専門家派遣とは一線を画す、一貫性のある、質の高い支援を提供していくという強い意志を示すためです。「事業価値デザイン」という言葉には、単に現状を分析するだけでなく、専門家との対話を通じて、企業自身も気づいていない”隠れた価値”(特に無形資産)を掘り起こし、未来に向けて”デザイン”していく、という積極的な姿勢が込められています。そして、「成長実現」という言葉には、デザインした価値を絵に描いた餅で終わらせず、企業価値担保権などを活用した融資に繋げ、その先の具体的な成長までを伴走支援していく、というゴールを見据えています。

このプログラムは、金融機関にとっても大きな意味を持ちます。これまで評価が難しかった無形資産や将来性について、このプログラムを通じて作成される客観的で質の高い情報(事業価値評価レポートなど)を活用することで、より自信を持って新しい融資(特に企業価値担保権活用融資)に踏み出せるようになることを目指しています。

つまり、この新ブランドは、事業者にとっては「成長への新たなパスポート」となり、金融機関にとっては「新しい融資への信頼できるナビゲーター」となる。そんな存在を目指すものです。では、このブランドの下で、具体的にどのような支援が展開されるのでしょうか?

目指す姿:「1つのブランド、3つのコース」で切れ目のない支援を

『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』の大きな特徴は、多様な企業のニーズに応えるための柔軟な構造にあります。それが「1つのブランド、3つのコース」という考え方です。

企業の状況は様々です。まだ自社の強みや課題を明確に把握できていない企業もあれば、具体的な成長戦略を描き、資金調達を必要としている企業、あるいは事業承継という大きな転換点を迎えようとしている企業もあります。

そこで、このプログラムでは、共通のブランドの下に、企業のステージや目的に合わせて選択できる3つのコースを用意することを提案しています。

  1. 基礎コース: まずは自社を知ることから始めたい企業向け
  2. 成長実現コース: 新たな成長戦略を描き、資金調達を目指す企業向け
  3. 事業承継準備コース: 円滑な事業承継と承継後の成長を目指す企業向け

これにより、企業は「今の自分たちに必要な支援はこれだ」と選びやすくなります。さらに重要なのは、これらのコースが連携している点です。「基礎コース」で現状を把握し、次なるステップが見えた企業が、スムーズに「成長実現コース」や「事業承継準備コース」へと進むことができる。いわば、企業の成長段階に合わせてエスカレーターのようにステップアップしていける”切れ目のない支援体制”を目指すのです。

これは、従来の「申請して、一回支援を受けて終わり」といった単発的な支援の限界を超えるものです。企業が持続的に成長していくための伴走型支援を、仕組みとして提供していく。これこそが、「兵庫モデル」が目指す新しい支援の形なのです。

次のセクションでは、これら3つのコースが具体的にどのような内容なのか、さらに詳しく見ていきましょう。

いよいよプログラムの全貌が見えてきました。具体的にどんなコースがあるのでしょうか?

徹底解剖!『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)

ここからは、提案されている3つのコースについて、それぞれの目的と内容を詳しく見ていきましょう。このプログラムが、いかにして企業の成長を後押しし、金融機関の皆様の事業性評価をサポートするのか、具体的なイメージを掴んでいただければ幸いです。

【入口】基礎コース:”最初の対話”で現状と課題を共有

まず、全ての企業にとっての最初の入口となるのが「基礎コース」です。これは、従来の「ひょうご中小企業技術・経営力評価制度」を発展的に継承・再定義するイメージです。

専門家(中小企業診断士など)が企業を訪問し、経営者との「対話」を重視しながら、財務状況だけでなく、事業内容、強みや弱み、将来への展望、経営課題などを一緒に整理していきます。いわば、企業の健康診断のような位置づけです。

このコースの目的は、詳細な分析レポートを作ること自体よりも、経営者自身が自社の現状を客観的に把握し、課題を認識すること、そして支援者(金融機関や専門家)と経営者の間で共通認識を持つための”最初の対話の場”を創出することにあります。多くの経営者は日々の業務に追われ、自社の強みや課題をじっくり考える機会をなかなか持てません。専門家との対話を通じて、新たな気づきを得たり、漠然と感じていた課題が明確になったりすることが、次への一歩を踏み出すきっかけとなります。金融機関にとっても、融資判断の初期段階として、企業の基本的な状況や経営者の考え方を理解する上で非常に有効な情報となるでしょう。

さあ、この入口から、企業の未来に向けた物語が始まります。次にご紹介するのは、その物語を本格的な成長軌道に乗せるための核心的なコースです。

【核心】成長実現コース:”対話”で無形資産を掘り起こし、融資へ繋ぐ

基礎コースを経て、より具体的な成長戦略を描き、その実現に向けた資金調達(特に企業価値担保権の活用)を目指す企業を対象とするのが、このプログラムの「核心」である「成長実現コース」です。このコースの最大のミッションは、企業価値担保権の活用を視野に入れ、企業の”目に見えない価値”を掘り起こし、それを金融機関が評価できる形に”デザイン”することです。

専門家が複数回(例えば4回程度)企業を訪問し、経営者や従業員との深い対話(ワークショップ形式なども有効)を重ねます。その中で、独自の技術、特許、ノウハウ、顧客リスト、ブランドイメージ、従業員のスキル、地域との繋がりといった、決算書には表れない「無形資産」を徹底的に洗い出し、それらがどのように将来の収益(キャッシュフロー)に結びつくのかを具体的に分析・整理していきます。

その成果として、「事業価値評価レポート」(仮称)を作成します。このレポートは、単なる現状分析ではなく、無形資産を基盤とした具体的な成長戦略と、その裏付けとなる将来キャッシュフロー計画を含むものとなります。これは、企業にとっては自社の進むべき道を示す”羅針盤”となり、金融機関にとっては、まさに企業価値担保権付き融資の審査における重要な判断材料となることを目指します。金融機関が最も知りたい「この会社の本当の強みは何か?」「将来どれだけ稼ぐ力があるのか?」という問いに対する、客観的で説得力のある答えを提示するツールとなるのです。

成長へのアクセルを踏み込むこのコースに続いて、もう一つの重要なテーマ、事業承継に特化したコースを見ていきましょう。

【未来】事業承継準備コース:承継を”成長戦略”に変える伴走支援

中小企業の持続的な発展において、事業承継は避けて通れない重要なテーマです。しかし、後継者問題やそれに伴う資金調達(自社株買い取り資金など)、そして経営者保証の引き継ぎ問題など、多くの課題が存在します。「事業承継準備コース」は、こうした課題を抱える企業を対象に、事業承継を単なる”引き継ぎ”ではなく、次なる成長への”戦略的な転換点”と捉え直すことを支援するコースです。

このコースでも、専門家が複数回訪問し、現経営者と後継者候補(親族、従業員、外部人材など)の双方と対話を重ねることが重要です。現経営者の想い、後継者のビジョン、そして会社の持つ強み(無形資産)を共有し、”承継後の成長戦略”を共に描いていきます。

そして、「成長実現コース」と同様に「事業価値評価レポート」を作成します。これは、承継後の事業計画や必要な資金計画の根拠となり、例えば、後継者が株式を買い取るための資金調達や、承継を機に行う新たな設備投資などの資金調達において、金融機関に示す説得力のある根拠資料となります。

このコースを通じて、現経営者は安心して次世代に経営を託すことができ、後継者は明確なビジョンと計画を持ってスタートを切ることができます。特に、原則として経営者保証を必要としない企業価値担保権を活用できれば、後継者の個人的なリスクを大幅に軽減し、より積極的な経営を後押しすることができます。金融機関としても、事業承継という地域経済にとって重要な局面をサポートすることで、企業とのより長期的な信頼関係を築くことができます。これは、企業の未来だけでなく、地域の未来を守り育てるための重要な取り組みなのです。

さて、これら3つのコースを見てきましたが、なぜこのような多段階のプログラムが有効なのでしょうか?

なぜこのプログラムが有効なのか?:企業の成長ステージに合わせた最適支援

ここまでご紹介してきた『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』の3つのコース。これらが連携することで、従来の単発的な支援では難しかった、企業の成長ステージに合わせた、柔軟かつ切れ目のないサポートが可能になります。

ポイント1:入口のハードルが低い

全ての企業がいきなり詳細な事業計画を作れるわけではありません。「基礎コース」という、まずは気軽に現状を確認し、専門家と話をする場があることで、これまで支援を受けることにためらいがあった企業も、最初の一歩を踏み出しやすくなります。

ポイント2:ステップアップが可能

「基礎コース」で自社の可能性に気づいた企業が、「成長実現コース」で本格的な戦略策定と資金調達に挑戦する。「成長実現コース」で事業を軌道に乗せた企業が、数年後、「事業承継準備コース」で次の世代へのバトンタッチを考える。このように、企業の成長段階やニーズの変化に応じて、プログラム内でスムーズにステップアップしていける設計になっています。

ポイント3:支援の質が担保される

各コースで「対話」を重視し、企業の主体性を引き出すプロセスを採用することで、単なる書類作成に終わらない、実効性のある支援を目指します。 特に「成長実現コース」「事業承継準備コース」で作成される「事業価値評価レポート」は、金融機関が求める情報と、企業が伝えたい価値を繋ぐ”共通言語”となり、質の高い金融仲介機能の発揮を後押しします。

ポイント4:無駄がない

最初から全ての企業に高度な支援を提供するのではなく、まずは「基礎コース」でスクリーニングを行い、本当に意欲と可能性のある企業に、より重点的なリソース(専門家の時間や費用補助など)を投入していく。これにより、限られた支援資源を効果的かつ効率的に活用することができます。

このように、『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』は、企業の多様なニーズに応えながら、持続的な成長を”仕組み”としてサポートしていくための、非常に戦略的な設計になっているのです。しかし、この素晴らしいプログラムも、それだけでは絵に描いた餅です。これを地域全体で動かしていくための”エンジン”が必要になります。

プログラムを動かす”仕組み”とは? その鍵を握るのが次なる提言です。

連携を”仕組み”にする:『ひょうご事業金融推進協議会(仮称)』設立の狙い

『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』という望ましい設計図があっても、それを実際に動かし、兵庫県全体に広め、そして時代に合わせて進化させていくためには、関係者が継続的に協力し、学び合うための「場」が必要です。いわば、プログラムを支え、育てていくための土壌作りです。その役割を担うのが、政策提言のもう一つの柱である『ひょうご事業金融推進協議会(仮称)』の設立です。

これは、年に数回集まって情報交換をするだけの形式的な会ではありません。兵庫県の事業性金融(事業の将来性に着目した金融)を、地域ぐるみでレベルアップさせていくための実質的な推進母体となることを目指します。県庁が主導し、県内の金融機関、信用保証協会、そして私たち中小企業診断士協会など、支援のキープレイヤーが一堂に会することで、どのような効果が期待できるのでしょうか?

この協議会が目指すのは、単なる情報交換に留まらない、より実践的な連携です。具体的にどのような活動を通じて、私たちの支援力を高めていくのか、見ていきましょう。

成功事例共有、共通言語醸成、実践的研修の場

この協議会は、具体的に以下の3つの重要な機能を持つことを想定しています。

機能1:成功事例・ノウハウの共有

『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』などを通じて生まれた具体的な成功事例(例えば、「こんな対話から、企業の隠れた強みが見つかった」「この業種の無形資産は、こう評価して融資に繋げた」「コベナンツをこう設定したら、企業の改善意欲が高まった」など)や、逆に直面した課題とその乗り越え方などを、参加機関がオープンに共有します。机上の空論ではなく、現場の生きた知恵を交換することで、各機関は自らの取り組みを改善するヒントを得られます。これは、地域全体の支援の質をスピーディーに底上げしていく上で非常に重要です。金融機関同士、あるいは金融機関と診断士が互いの知見を学ぶ絶好の機会となるでしょう。

機能2:「共通言語」の醸成

企業価値担保権の活用において鍵となる「事業価値」「無形資産」「将来キャッシュフロー」といった概念は、まだ新しい考え方であり、評価する人によって捉え方が異なると、混乱を招きかねません。そこで、この協議会では、これらの言葉の定義や評価の着眼点について、金融機関と支援専門家の間で目線合わせを行います。「どういう情報があれば無形資産として評価しやすいか」「事業計画のどの部分を特に重視するか」といった具体的な基準について議論し、「共通言語」を作り上げていくことを目指します。これにより、企業側も、支援専門家も、金融機関が何を求めているかを理解しやすくなり、『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』で作成されるレポートなどが、融資審査の現場でよりスムーズに活用されるようになります。評価基準についてオープンに議論することで、より公平で納得感のある評価にも繋がります。

機能3:実践的な研修の企画・実施

前回の記事で明らかになった、現場が抱える「スキルギャップ」という深刻な課題に対応するため、協議会の協議内容をきっかけとして、本当に現場で役立つ実践的な研修を企画・実施します。「理論は分かったけれど、具体的にどうすればいいのか?」という現場の声に応えるため、例えば、特定の業種に特化した無形資産の評価演習、経営者を巻き込む対話(ファシリテーション)スキルのトレーニング、効果的なコベナンツ設計のワークショップなど、具体的ですぐに使えるスキルを習得できる場を提供します。講師も、実際に成功事例を持つ金融機関の担当者や中小企業診断士などが務めることで、よりリアリティのある学びが得られるでしょう。これにより、金融機関職員や支援専門家は、自信を持って新しい支援手法に取り組めるようになります。

このように、『ひょうご事業金融推進協議会』は、単なる会議体ではなく、情報共有、目線合わせ、スキルアップという3つの機能を備えた、兵庫県の事業性金融を進化させるための”エンジン”となることを目指します。しかし、どんなに素晴らしい仕組みを作っても、それを動かすのは”人”です。次に、その”人財”育成について見ていきましょう。

仕組みを動かすのは「人」。その育成戦略とは?

”人財”こそが鍵:『業種別対話ファシリテーター』育成・認定制度の意義

どんなに優れたプログラムや連携の仕組みを構築しても、実際に中小企業と向き合い、その価値を引き出し、成長をサポートするのは、私たち「支援者」一人ひとりです。『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』を真に価値あるものにするためには、それを担う”人財”の質が決定的に重要になります。

特に、企業価値担保権の活用においては、企業の事業内容、属する業界の特性、そして目に見えない無形資産を深く理解する「専門性」と、経営者や従業員の想いを引き出し、共に未来を描く「対話力」が不可欠です。しかし、これら全てを高いレベルで兼ね備えた人材は、残念ながら現状では多くありません。

そこで、政策提言では、この”人財”育成に真正面から取り組むための仕組みとして、『業種別対話ファシリテーター』の育成・認定制度の整備を提案しています。これは単なる資格付与ではなく、兵庫県全体の支援力の底上げ質の担保を目指す、戦略的な取り組みです。

金融機関・診断士・商工団体の垣根を越えた専門家育成

この制度の最大の特徴は、組織の垣根を越えて専門家を育成・認定する点にあります。

育成対象

金融機関の行員、中小企業診断士、商工会議所・商工会の経営指導員など、普段から中小企業支援の最前線にいる方々を対象とします。

育成内容

共通の研修プログラムを通じて、以下の2つの能力を重点的に強化します。

  1. 特定の業種に関する深い知見: 例えば、「金属加工業」「食品製造業」「ITサービス業」といった特定の業種について、そのビジネスモデル、業界動向、特有の課題、評価すべき無形資産などを深く学びます。
  2. 対話(ファシリテーション)スキル: 経営者や従業員の本音を引き出し、議論を活性化させ、共に課題解決策や成長戦略を創り上げていくための、高度なコミュニケーション・スキルを習得します。単なる「聞き役」や「教える役」ではなく、企業の主体的な気づきと行動を促す「触媒」としての役割が求められます。

認定と活用

研修を修了し、実践的な能力が認められた方を、兵庫県と中小企業診断士協会などが連携して「業種別対話ファシリテーター」として認定します。認定された専門家はリスト化され、県内の金融機関や支援機関で共有されます。

そして、『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』の各コース(特に成長実現コースや事業承継準備コース)において、支援対象となる企業の業種や課題に応じて、最適なファシリテーターが派遣される仕組みを構築します。

期待される効果

これにより、「餅は餅屋」ということわざの通り、各業種の専門家がその知見を活かした質の高い支援を提供できるようになります。金融機関の担当者にとっては、専門的な分析や評価を信頼できるパートナーに任せることができ、自らは融資判断や資金繰り支援といった本来の役割に、より集中できるようになります。また、中小企業診断士や商工団体の職員にとっても、専門性を高め、活躍の場を広げるチャンスとなります。

このように、”人財”育成に地域ぐるみで投資し、その能力を最大限に活かす仕組みを作ること。それこそが、「兵庫モデル」を持続可能なものにするための重要な鍵となるのです。

さあ、いよいよ最後のセクションです。これらの取り組みが実現した時、私たちの兵庫県にはどのような未来が待っているのでしょうか?

未来への期待:”共創”エコシステムがもたらす地域への恩恵

これまで見てきた『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)』、『ひょうご事業金融推進協議会』、そして『業種別対話ファシリテーター』育成・認定制度。これらが歯車のように噛み合い、動き出すとき、兵庫県の中小企業支援は新たなステージへと進化します。それは単に新しい融資制度に対応する、という次元を超え、地域経済全体にポジティブな循環を生み出す「共創のエコシステム」の誕生を意味します。

このエコシステムがもたらす恩恵は、関わる全ての人々、そして兵庫県という地域全体に及びます。具体的にどのような未来が期待できるのか、それぞれの立場から見ていきましょう。

事業者・金融機関・支援者、そして地域全体へのWin-Win-Win

この「兵庫モデル」が目指すのは、誰かだけが利益を得るゼロサムゲームではありません。関わる全てのステークホルダーが共に価値を創造し、共に成長していく「Win-Win-Win」の関係です。

事業者にとっては(Win!)

  • 成長機会の拡大: これまで資金調達の壁に阻まれていた、無形資産を活かした新しい挑戦や、大胆な事業展開が可能になります。スタートアップや、事業承継後の第二創業などが活発になるでしょう。
  • 経営力の向上: 専門家との対話を通じて、自社の本当の強みや課題を深く理解し、より的確な経営判断ができるようになります。単なる資金調達支援に留まらず、本質的な経営改善に繋がります。
  • 信頼できるパートナーの獲得: 金融機関や支援専門家との間に、単なる「貸し手」「借り手」や「支援者」「被支援者」を超えた、長期的な信頼関係が築かれます。

金融機関にとっては(Win!)

  • 新たな収益機会の創出: 企業価値担保権という新しい武器を手に入れることで、これまで融資が難しかった企業へのアプローチが可能になり、貸出先の裾野が広がります。事業性評価に基づく適正な金利設定も可能になるでしょう。
  • 金融仲介機能の質の向上: 外部専門家との連携により、より深く企業の価値を理解した上での融資判断が可能になり、不良債権リスクの低減も期待できます。また、質の高い支援を提供することで、地域における存在価値・信頼性が向上します。
  • 行員の負担軽減と専門性向上: 専門的な評価や計画策定支援を外部と分担することで、行員は顧客との関係構築や本来の金融業務により集中できます。また、協議会や研修を通じて、自身のスキルアップも図れます。

支援専門家(中小企業診断士など)にとっては(Win!)

  • 活躍の場の拡大: 金融機関との公式な連携プログラムの中で、自身の専門知識や対話スキルを活かす機会が大幅に増えます。
  • 専門性の深化と価値向上: 「業種別対話ファシリテーター」などの認定制度を通じて、特定の分野における専門家としての地位を確立し、自身の市場価値を高めることができます。
  • 地域貢献の実感: 地域経済の活性化に直接的に貢献しているという、大きなやりがいと誇りを感じることができます。

兵庫県全体にとっては(Win!)

  • 地域経済の活性化: 中小企業の成長加速、新産業の創出、雇用の維持・拡大に繋がります。
  • 持続可能な産業基盤の構築: 円滑な事業承継が進むことで、地域を支える優良企業が未来へと引き継がれていきます。
  • 先進的なモデル地域へ: 全国に先駆けて新しい支援エコシステムを構築することで、「中小企業支援先進県・兵庫」としてのブランドイメージを確立し、他の地域からの企業誘致や人材獲得にも繋がる可能性があります。

このように、「兵庫モデル」は、関わる全ての人々がハッピーになれる可能性を秘めた、まさに「共通価値の創造」を目指す取り組みなのです。

まとめ:”受け身”から”仕掛け人”へ – 新時代を創る支援者の使命

今回の記事では、企業価値担保権という大きな変化に対応するため、兵庫県が目指すべき具体的な連携の姿、「新・兵庫モデル」について詳しくご紹介しました。

  • 『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム(仮称)による、企業の状況に合わせた切れ目のない支援。
  • 『ひょうご事業金融推進協議会』による、地域全体の支援力向上のための連携基盤。
  • 『業種別対話ファシリテーター』育成・認定制度による、質の高い支援を担う人財育成。

これらは、単なる理想論ではありません。国の”革命”を地域経済の確かな力に変えるための、具体的で実現可能なアクションプランです。

私たち金融機関職員や中小企業診断士は、この新しい時代の変化を、ただ”受け身”で待つのではなく、自らが主体的に関わり、地域をより良く変えていく”仕掛け人”となることが求められています。それは、大きな挑戦であると同時に、私たちの仕事の価値をさらに高め、地域に貢献できる、またとないチャンスでもあります。

  • 次回予告:では、この新しい支援モデルの中核となる「事業価値のデザイン」、特に企業価値担保権の鍵となる”目に見えない価値”を、具体的にどのように掘り起こし、評価し、レポートとして形にしていくのか? 次回は、その実践的な「技法」について、さらに深く掘り下げていきます。どうぞご期待ください!

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【令和7年度 調査・研究事業 成果報告会】

  • 日時: 2025年11月14日(金) 14:00~16:00
  • 開催会場: 神戸市産業振興センター 会議室802+803
  • 参加費: 無料
  • 参加方法:
    1. 会場でのリアル参加
    2. Zoomでのオンライン参加+後日での動画視聴参加

    ※お申し込み時に、ご希望の参加方法をお選びいただけます。なお、当日発表内容に質問ができるのは、会場参加のみです。また会場参加は席に限り(30名)がございますので、お早めにお申し込みください。

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この記事を書いた人

銀行員時代に中小企業の倒産を目の当たりにし、「支援したい」という強い使命感から中小企業診断士として独立しました。25年の経験を活かし「神戸密着経営」を掲げ、地域に根差し現場に寄り添う伴走型支援を提供しています。このマガジンでは、財務改善や資金繰り支援に特化した実践的な事業性評価のポイント、そして最新情報を発信し、皆様の事業発展を全力でサポートします。

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