皆さん、こんにちは。事業性評価ツールマガジンのリーダー:西口です。
全5回にわたってお届けしてきた「企業価値担保権」をテーマとした本シリーズも、今回がいよいよ最終回を迎えました。私たちはこれまで、2026年5月に迫る新制度の衝撃と、それに直面する現場のリアルな課題、そしてそれらを乗り越えるための兵庫県独自の解決策「新・兵庫モデル」について、深く掘り下げてきました。「事業価値評価レポート」や「コベナンツ」といった具体的なツールが、いかにして日々の伴走支援を変えていくのか、その実践的なイメージも共有できたかと思います。
最終回となる今回は、視点を少し高く上げ、未来の地平線を見つめてみましょう。これらの取り組みが一つに結実したとき、私たちの愛する兵庫県の未来にどのようなインパクトをもたらすのか。その計り知れないポテンシャルと、私たちが目指すべきワクワクするような未来像について一緒に考えたいと思います。
「企業価値担保権」という、これまでの常識を覆す新しい武器。そして、それを地域の実情に合わせて最大限に活かすための強力なエンジンである「兵庫モデル」。この二つを手に入れた私たちは、これからの兵庫県経済に、一体どのようなダイナミックな変革を起こせるのでしょうか? そしてその変革の渦中で、私たち金融機関職員や中小企業診断士は、どのような崇高な使命を帯びることになるのでしょうか?
新しい時代の幕明けを前に、地域を支える支援者としての「兵庫プライド」を胸に、共に希望あふれる未来への一歩を踏み出しましょう。
シリーズ最終回 – これまでの議論の集大成
これまでの4回の連載は、いわば未来への設計図を描くプロセスでした。私たちは企業価値担保権という大きな変化の波を、単に乗り切るだけでなく、兵庫県独自の「共創」の力でさらなる飛躍のチャンスに変えていくための確かな道筋を確認してきました。
- 第1回: 迫りくる”革命”の正体と、現場が抱える「時間がない」「ノウハウがない」という切実な課題を直視し、個々の努力を超えた地域全体の連携が不可欠であることを確認しました。
- 第2回: 課題解決の切り札となる「新・兵庫モデル」(成長段階別の支援プログラム、官民一体の推進協議会、専門家認定制度)の全体像を提示し、組織の壁を越えたチームづくりの構想を描きました。
- 第3回: その中核となる「事業価値評価レポート」の作成技法を学び、企業の”見えない価値”を言語化・可視化するための「対話」の決定的な重要性を再認識しました。
- 第4回: 融資実行はゴールではなくスタートであるという認識のもと、企業の成長を支える「コベナンツ」の戦略的活用と、継続的な伴走支援の実務ノウハウを深掘りしました。
これらのピースが全て揃い、有機的に機能し始めたとき、兵庫県の地域経済には、これまでにない大きなダイナミズムが生まれるはずです。それは、単なる経済指標の向上といった数字の変化に留まりません。地域全体に「挑戦する活力」や「未来への確かな希望」が満ち溢れる、より本質的な変化をもたらすでしょう。
最終回では、その具体的な未来像を、3つの切り口から鮮明に展望してみたいと思います。
企業価値担保権が解き放つ、兵庫県経済の”潜在能力”
企業価値担保権は、これまで金融機関の評価テーブルに載りにくかった「無形資産」や「将来性」に、正当な光を当てる制度です。これは、兵庫県経済の深層に眠っていた巨大な潜在能力を解き放つマスターキーとなります。
イノベーションの起爆剤:スタートアップ支援の新潮流
兵庫県には、神戸の医療産業都市で生まれる最先端のバイオベンチャーや、播磨のものづくり現場から派生するディープテック企業など、世界を変える可能性を秘めた種が数多く存在します。しかし、こうした革新的な技術やアイデアを持つスタートアップにとって、実績も有形資産もない初期段階での資金調達は、「死の谷」とも呼ばれる生存率の低い最大の難関でした。
企業価値担保権は、この状況を一変させる可能性を秘めています。彼らが持つ将来の成長可能性やコアとなる技術力そのものを担保に、大胆な成長資金を供給することが可能になるからです。「工場はないけれど、世界で勝てる技術がある」。そんな若き挑戦者たちが、資金繰りの心配から解放され、研究開発や事業拡大に没頭できる環境が整います。兵庫県から、世界市場へ羽ばたく次世代のユニコーン企業が次々と生まれる土壌が、ここに完成するのです。
地域産業の灯を未来へ:事業承継問題への光明
また、県内各地には、長い歴史を持ち、地域の雇用と文化を支えてきた数多くの優良な中小企業が存在します。しかし今、その多くが後継者不在や、先代からの個人保証という重い十字架によって、廃業の危機に瀕しています。これは、地域にとってかけがえのない技術や伝統、そしてコミュニティの喪失を意味します。
企業価値担保権は、この深刻な問題にも光明をもたらします。経営者保証を原則不要とすることで、意欲ある若手後継者の心理的・経済的負担を劇的に軽減できるからです。さらに、「事業承継準備コース」のような伴走支援を通じて、承継を単なるバトンタッチではなく、第二創業のチャンスへと変えていく。老舗企業の伝統的な強みと、若い後継者の新しいデジタル感性などが融合し、新たな価値が生まれる。そんなダイナミックな産業の新陳代謝が、地域の活力を再び呼び覚ますでしょう。
”再挑戦”を支える社会へ:事業再生の新たな選択肢
一度事業に失敗した経営者が、再び挑戦することは容易ではありませんでした。日本社会にはまだ、失敗に対する不寛容な空気が残っています。しかし、失敗の経験こそが、次の成功への貴重な糧となることも事実です。企業価値担保権は、過去の失敗(バランスシートの毀損)ではなく、現在の事業が持つ本質的な収益力と未来の可能性に着目するため、再起を図る意欲ある企業家への新たな資金調達手段となり得ます。
また、万が一の際も、事業全体をバラバラに解体するのではなく、一体として他のスポンサーに譲渡する道が開かれているため、事業価値や従業員の雇用が維持されやすくなります。「誠実な失敗なら、また挑戦できる」。そんなセーフティネットがある社会は、人々の起業家精神を刺激し、経済全体の活性化に繋がります。
『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム』が創り出す未来
では、「新・兵庫モデル」の中核である『ひょうご事業価値デザイン・成長実現プログラム』が地域に浸透したとき、どのような未来が待っているのでしょうか? それは、単なる支援プログラムの枠を超え、兵庫県のビジネス風土そのものを変革する可能性を秘めています。
‟見えない価値”が正当に評価され、挑戦が奨励される風土へ
このプログラムが普及すれば、「良い技術を持っているけれど、担保がないから…」と諦めていた企業が、正当な評価を受けられるようになります。「うちのような小さな会社でも、きちんと話を聞いてくれて、価値を認めてもらえた」という成功体験が積み重なることで、地域全体に「挑戦することが評価される」という新たな常識が根付きます。それは、兵庫県を、意欲ある若者や経営者が集まる「挑戦者の聖地」へと変えていく力になるでしょう。
金融機関と事業者の‟共創”が常識となる社会へ
プログラムを通じて、金融機関と事業者が深い対話を重ね、共通のゴールに向かって伴走する経験を積むことで、両者の関係性は劇的に変化します。これまでの「貸す側・借りる側」「審査する側・される側」という対立的な構図から、同じ船に乗って未来を目指す「運命共同体」、「共に未来を創るパートナー」という共創関係が当たり前の社会へ。この強固な信頼関係こそが、どんな経済危機にも揺るがない、地域経済の最も強力な基盤となります。
持続可能な産業基盤と、活力ある地域コミュニティへ
円滑な事業承継やスタートアップの成長は、地域の雇用を守り、新たな質の高い雇用を生み出します。若者が地元で働き、家族を持ち、暮らしていける。それは、人口減少に悩む多くの地域にとって、コミュニティを維持・発展させるための生命線です。経済の活力が地域の活力(祭りや伝統行事の担い手、地域のコミュニティ活動など)を生み、それがまた新たな人を呼び込み、経済活動を活性化させる。そんな持続可能な好循環が、兵庫県の各地で生まれる未来を目指します。
新時代の支援者の肖像 – 私たちの役割はどう進化するか?
このような輝かしい未来を実現するために、私たち支援者自身の役割も、これまでとは全く異なる次元へと進化する必要があります。AIが単純な分析作業を代替する時代において、人間にしかできない、より高度で、より人間味あふれる創造的な役割が求められているのです。
単なる評価者・助言者から、「価値創造のパートナー」「伴走者」へ
これまでの私たちは、どちらかといえば「先生」のような立場から、企業の状況を客観的に評価し、必要な助言を行うことが主な役割だったかもしれません。しかし、これからは違います。企業と同じ目線に立ち、同じ夢を追いかけ、共に悩み、共に汗を流す「真のパートナー」であり、長く険しい成長の道のりを隣で走り続ける「伴走者」へと、スタンスを大きくシフトさせる必要があります。
企業の夢を、まるで自分の夢であるかのように熱く語れる。経営者の孤独な戦いに、心から寄り添える。そんな熱い想い(パッション)を持った支援者こそが、これからの時代に求められているのです。
専門性と対話力を武器に、地域経済をデザインする存在へ
『業種別対話ファシリテーター』のように、特定の分野における圧倒的に深い専門性と、多様な利害関係者を巻き込み、複雑な問題を解きほぐし、合意形成へと導く高い対話力(ファシリテーション能力)。この二つを兼ね備えた人材が、これからの地域経済をリードするキーパーソンとなります。
もはや、一社一社の支援だけでは十分ではありません。地域全体の産業構造を俯瞰し、どの企業とどの企業を結び付ければ新しい価値が生まれるのか、地域全体のエコシステムをどう進化させればよいのか。そうした視点を持って「地域経済をデザインする」ことこそが、私たちに課せられた新たな、そして壮大なミッションなのです。
金融機関・診断士・行政…多様な主体との”越境”による価値創出
複雑化する現代の経営課題は、一つの組織や職種の力だけで解決することは困難です。金融機関、中小企業診断士、税理士、弁護士、大学の研究者、行政の担当者、そして地域住民…。多様な主体がそれぞれの壁を乗り越え、”越境”して連携することで初めて、これまでにない革新的なアイデアや価値が生まれます。
私たち支援者は、異なる言語を話すこれらの主体を繋ぎ、化学反応を起こさせる「触媒」であり、「翻訳者」でもあります。地域の様々なリソースを有機的に結びつけ、大きなうねりを生み出していく。そんなダイナミックな役割が期待されています。
”共通価値の創造”こそが持続可能な未来への鍵
「兵庫モデル」の根底に流れているのは、Creating Shared Value (CSV: 共通価値の創造)という哲学です。
事業者・金融機関・支援者・地域社会…全てのステークホルダーへの恩恵
事業者が成長すれば、雇用が生まれ、地域が潤います。金融機関は健全な収益を上げ、地域金融システムが安定します。支援者は実績と信頼を積み重ね、さらなる活躍の場が広がります。そして地域社会全体が豊かになり、魅力的なまちづくりが進みます。
誰かの犠牲の上に成り立つ繁栄は長続きしません。関わる全てのステークホルダーが、それぞれの立場でメリットを享受し、共に喜びを分かち合える仕組み。それこそが、真に持続可能で、誰もが幸せになれる地域経済の姿です。「兵庫モデル」は、そんな理想郷への挑戦なのです。
兵庫県が全国に先駆けて示す、新しい地域金融モデル
私たちが目指す「兵庫モデル」は、決して兵庫県だけのためのものではありません。日本全国、多くの地域が同じように人口減少や産業衰退の課題に直面しています。もし、私たちがこの兵庫の地で、企業価値担保権を活用した地域共創のモデルを成功させることができれば、それは全国の地域にとっての大きな希望の光となります。
「兵庫でできたなら、私たちにもできるかもしれない」。そんな勇気とインスピレーションを全国に届けること。それもまた、歴史的にも先進的な取り組みを数多く生み出してきた、兵庫県としての重要な役割ではないでしょうか。
明日からできること – 未来を創る”はじめの一歩”
壮大な未来の話をしてきましたが、千里の道も一歩から。全ては、私たち一人ひとりの小さな行動から始まります。明日から、具体的に何ができるでしょうか?
学び続ける姿勢:新制度、新プログラムへの理解深化
まずは、知ることから始めましょう。企業価値担保権という新制度や、これから始まるであろう新しい支援プログラムについて、正しく、深く理解することです。書籍を紐解き、研修に参加し、仲間と議論を交わす。プロフェッショナルとして学び続ける姿勢こそが、変化の時代を生き抜く最大の武器です。
繋がる勇気:協議会や研修への参加、異業種交流
もし『ひょうご事業金融推進協議会』のような場ができたら、迷わず飛び込んでみましょう。そうでなくても、地域の勉強会や異業種交流会に顔を出し、普段話す機会の少ない金融機関の方や他の士業の方と名刺交換をし、一言でもいいから言葉を交わしてみてください。その小さな勇気が、将来、地域を変える大きな連携のきっかけになるかもしれません。
実践する覚悟:目の前の中小企業との”対話”から始める
そして何より大切なのは、実践です。明日会う経営者の方に、いつもより少しだけ踏み込んだ質問をしてみませんか?「社長の夢は何ですか?」「御社が一番大切にしていることは何ですか?」。そんな、心と心が通い合う小さな「対話」から、すべての変革は始まります。
エピローグ:兵庫の未来は、私たちの手の中に – 新しい時代の幕明けに向けて
2026年5月は、もうすぐそこまで来ています。大きな変化の波を前に、不安を感じることもあるかもしれません。しかし、恐れることはありません。私たちには、これまで地域を支えてきた実績と、仲間との絆があります。
「兵庫プライド」を胸に、顔を上げ、新しい時代の幕明けを、私たち自身の手で力強く切り拓いていきましょう。愛する兵庫の中小企業のために、そして輝かしい未来のために。
支援者としての誇りと使命感を胸に
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。全5回のこのシリーズが、皆様の新たな挑戦への小さな灯火となれば、これ以上の喜びはありません。いつか、活気あふれる支援の現場で、皆様とお会いできる日を心から楽しみにしています。ぜひとも共に、頑張りましょう。

