皆様、こんにちは!事業性評価ツールマガジンの管理人、中小企業診断士の西本です。
前回、金融機関向けアンケートに143件もの熱意あるご回答をいただき、その速報をお届けしました。
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今回は、その膨大なデータと並行して実施したインタビュー結果を徹底的に分析し、「最終報告書に向けた重大な決断」を下した、熱気に満ちた第6回会議(8/15開催)の模様をご報告します。
データと現場の声という二つの羅針盤が導き出したのは、単なる報告書の作成に留まらない、より実行性の高い「兵庫版支援スキーム」の構築という、次なる大きな挑戦です。
データと現場の声を統合 — AI分析で浮き彫りになった「本質」
アンケートは最終的に143件の回答を得て完了し、メンバーが実施した複数の金融機関インタビューも併せて、その分析結果が会議で共有されました。特に今回は、AIツール(NotebookLM)を活用してインタビュー音声の共通点と相違点を抽出。定量データと定性データが一致する、事業性評価の「本質」が明確になりました。
1. 事業性評価の主目的は「顧客理解と対話の深化」
アンケートでは「企業の事業の深い理解」が最も重視され、インタビューでは「経営支援への繋げ方」が重要視されていました。これは、事業性評価が融資の可否判断ツールから、金融機関が顧客と中長期的な関係を構築するための「コミュニケーションツール」へと役割をシフトしていることを示しています。
2. 現場の「業務負荷」と「評価のバラつき」が最大の障壁
アンケート結果で「ツール作成に時間がかかる」「現場の負担が多い」ことが最大の課題とされていましたが、AI分析でも「業務負荷と担当者間の評価のバラつき」が共通の障壁として抽出されました。本部が推進する理想と、現場の現実的な業務量の間に存在する根深いギャップを示しています。このギャップをどう埋めるかが、今後の研究の最大の焦点となります。
3. 金融機関の「取り組み成熟度」に大きな差
インタビューの相違点分析では、積極的に新たな融資商品開発に取り組む先進的な金融機関(本部主導型)がある一方で、事業性評価ツールにまだ着手できていない金融機関も存在するという、取り組み成熟度の二極化が明確になりました。この差に対し、一律ではなく、段階に応じた支援策を提言する必要性が確認されました。
診断士インタビューから見えた「実践現場の課題」
アンケートと金融機関インタビューに加え、実際に事業性評価ツールを活用している中小企業診断士へのインタビューも進められています。今回は、ローカルベンチマークの専門家であるK氏とN氏のインタビュー結果が報告され、各ツールの「実践的な課題」が浮き彫りになりました。
1. ローカルベンチマークの功罪 — 専門家が語る「簡潔さ」という両刃の剣
ローカルベンチマークの専門家であるK氏へのインタビュー結果では、このツールの本質的な強みと弱みが浮き彫りになりました。
草加部氏は、経営者・関係者が項目ごとに強み弱みを「簡潔に把握できる」という高い作成しやすさと分かりやすさを評価する一方で、「簡潔さ」ゆえに内容が浅くなりがちであるという弱点も指摘しました。特に、財務分析が指標数値のみに留まるため文章説明が不足し、課題把握と対応策の提案までが不十分になりやすいという課題を挙げました。
これに対し、会議ではSWOT分析や市場分析といった「別紙資料の追加」や、継続的な「フォローアップ仕組みの構築」が必要だという、実践的な改善提案が議論されました。
2. 技術評価の有効性と、それを支える「人」の課題
N氏へのインタビューでは、技術評価の知見をものづくり補助金の事業計画作成時に活用することで、採択率向上という具体的な成果に繋がっている事例が共有されました。定性的な技術情報を客観的に評価する技術評価の有効性が再確認されました。
しかし、各ツールに共通する、より根深い課題として、定性評価の限界に加え、最終的な報告書を経営支援に活かすための「金融機関職員の質的向上」が不可欠であることが強調されました。冨松氏からは「ツールはあくまでプロセスの道具であり、本質は企業とのプロセスの中での気づきにある」という意見が出され、支援の質の重要性が再認識されました。
最終報告書に向けた重大な決断と次なる挑戦
収集したすべてのデータと知見を基に、会議は最終報告書に向けた極めて重要な意思決定を行いました。メンバー間の真剣な議論から、私たちの研究が目指すべきゴールがより明確になりました。
1. 事例分析の英断 — 成功事例を追うことをやめた理由
当初の計画に組み込まれていた中小企業への「成功事例分析」は、議論の末、実施を見送ることが決定されました。
この決断は、単なるスケジュールの都合ではなく、客観性を追求するための英断です。冨松氏は「成功事例は客観性を欠き、ミスリードを招く」と強く懸念を表明しました。これに対し上田氏も「恣意的な選択となり、追跡調査も現実的に困難」と同意。また、藤原氏も「定性と定量を結びつけ、成功を証明することが難しい」という本質的な課題を指摘しました。
最終的に、西口リーダーが「成功事例を追うよりも、既存の支援者インタビューを深掘りし、業務効率化や評価のバラつきを抑えるための具体的な『知恵』を収集する方が、我々の研究目的に合致する」と結論付け、全員が実施見送りを決定しました。
2. 企業ライフサイクル論の「理想と現実」への挑戦:議論の白熱
西本が作成した「企業ライフサイクルと事業性評価ツールの活用方法」の記事案について、理想と現実が激しく交錯する議論が展開されました。
上田氏からは、理想と現実の乖離を指摘し、「中小企業ライフサイクル論を現実に適用することの困難さ」や「支援側の保守性」、「特に成長期待企業への支援不足」という強い問題提起がありました。
また、冨松氏は「創業期支援においては、ツールよりも行動力と軌道修正力といった起業家の資質を重視すべき」と、支援方針の見直しを提案。藤原氏からは「知的資産経営の用語が不足している」「ライフサイクルの判定自体が現場では困難」という実践的な疑問が呈されました。西口リーダーも、「SDGs要素への違和感」や「資金繰り支援と事業性評価の2軸提案」の必要性を指摘しました。
この激論の結果、「ツールの限界と使い分けの明確化」や「実践的な視点」を取り込むという宿題が共有され、記事のさらなる深化を図ることになりました。
3. 政策提言の骨子案 — 現実味を帯びた「兵庫版支援スキーム」
最終成果物である政策提言に向けて、会議では、県内金融機関へのヒアリング結果や「広島モデル」などを参考に、兵庫県独自の支援スキームの骨子案が提示されました。
これは、金融機関職員によるローカルベンチマーク作成から、技術評価、経営デザインシートによる成長プラン策定、そして知的資産経営報告書による深掘り支援へと繋がる、段階的なスキームです。
しかし、この骨子案に対しても、メンバーからは「全ツール活用の無理やり感」や、金融機関の現場が実際に受け入れられる「支援スキームの現実性」について、率直な課題認識が共有されました。次回会議では、この課題に対し、現実性と実現可能性を追求する議論が繰り広げられることになります。
まとめ:動き出す最終報告書への道筋
データ分析の結果、私たちが解決すべき最大の課題は、「現場の業務負荷軽減」と「支援の質的向上」に集約されました。
事例分析を見送るという英断を下した今、私たちの挑戦は「ツールの作り手(診断士)」へのインタビューを通じて、業務効率化と評価のバラつきを抑えるための具体的な「知恵」を収集することに集約されます。
今後は報告書の論点整理と政策提言の具体化に全力を注ぎます。次回会議は9月19日(Zoom)、その後の9月27日にはリアル会場での討論会を予定しています。
この挑戦の集大成に、ぜひご期待ください!

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