ローカルベンチマーク(2)~金融機関との対話を深める「事業性評価」のための活用マニュアル「その1 ①業務フロー、②商流」~

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イントロダクション

「金融機関との会話が一方通行だと感じている」「融資の相談をしても、なかなか自社の強みが伝わらない」—もしあなたがそんな悩みを抱えているなら、このブログ記事がその解決の糸口になるかもしれません。

第1回では、ローカルベンチマークを「企業の健康診断ツール」としてご紹介しました。しかし、その真価は単なる自己分析に留まりません。実は、ローカルベンチマークは金融機関との対話を深め、あなたの会社の事業の可能性を最大限に引き出すための、強力な「戦略的ツール」なのです。

今回の記事では、金融機関がローカルベンチマークをどのように見て、あなたの会社を評価しているのか、その裏側を徹底解説します。そして、あなたの会社の「見えない強み」を効果的に伝え、融資や伴走支援へと繋げるための具体的な活用方法を、「その1 ①業務フロー、②商流」としてマニュアル形式で詳しくご紹介していきます。

なぜ今、金融機関はローカルベンチマークに注目するのか?

かつて、金融機関の融資判断は、土地や建物といった「担保」、あるいは代表者の「個人保証」に重きを置くのが一般的でした。しかし、時代とともに経済環境が変化し、そうした従来の評価軸だけでは企業の真の価値や成長性を捉えきれないという課題が浮上してきました。

金融庁が求める「事業性評価」とは?

こうした背景から、金融庁は金融機関に対し、「事業性評価」への移行を強く促しています。これは、2019年の金融検査マニュアル廃止に代表されるように、「企業の事業そのもの」に着目し、その将来性や成長可能性を見極めようとする新たな評価手法です。

事業性評価では、単に過去の決算書に表れる財務状況だけを見るのではありません。

  • 企業がどのようなビジネスモデルで収益を上げているのか
  • その事業にどのような成長性があるのか
  • そして、それを牽引する経営者の資質や熱意はどうか

といった、財務諸表には表れない非財務情報を多角的に評価することが求められています。この事業性評価こそが、金融機関がローカルベンチマークに注目する大きな理由なのです。

金融機関にとってのローカルベンチマークの役割

では、金融機関は具体的にローカルベンチマークをどのように活用しているのでしょうか?その役割を深く理解することで、企業側もより効果的に情報を伝え、関係性を強化できます。

1. 共通言語としての役割

企業側は自社の状況を理解している一方、金融機関は多数の顧客を抱え、限られた時間で企業の実態を把握する必要があります。ローカルベンチマークは、この企業と金融機関との間に生じがちな認識のズレをなくす「共通言語」として機能します。テンプレートに沿って情報を整理することで、金融機関は効率的に企業のビジネスモデルや課題を理解でき、企業側も伝えたい内容を体系的に提示できます。

2. 効率的な情報収集

金融機関にとって、一社一社の詳細なヒアリングには膨大な時間と労力がかかります。ローカルベンチマークは、企業の非財務情報から財務情報まで、必要な要素が網羅的に整理されているため、短時間で企業の全体像を把握できる非常に効率的なツールです。これにより、担当者はより多くの企業と深く向き合う時間を確保できるようになります。

3. 深掘り対話のきっかけ

決算書などの数字だけでは見えてこない、企業の真の強みや潜在的な成長の根源は決して少なくありません。ローカルベンチマークは、非財務情報と財務情報を関連付けながら確認できるため、金融機関が「なぜこの数字なのか」「この事業の背景には何があるのか」といった深掘りした対話を始めるためのきっかけとなります。これにより、表面的な情報だけでなく、企業の個性を理解し、より実態に即した評価に繋がります。

4. 伴走支援の基盤

融資を実行して終わり、ではありません。事業性評価を重視する金融機関は、融資後の企業の成長も重視します。ローカルベンチマークは、企業の現状と未来の方向性を共有するための基盤となり、融資後のフォローアップや、必要に応じた経営支援に繋げるためのロードマップとして活用されます。つまり、金融機関が単なるお金の貸し手ではなく、企業の「伴走者」として機能するための重要なツールなのです。

ローカルベンチマークの特徴と具体的な書き方・記入例

ここからは、ローカルベンチマークの具体的な構成と、その書き方、記入例について詳しく見ていきましょう。いざシートを前にすると「何から書けばいいの?」と戸惑うかもしれませんが、ポイントを押さえれば大丈夫です。

経済産業省による公式テンプレートの入手方法と概要

ローカルベンチマークの作成には、経済産業省が無料で提供している公式テンプレートを利用するのが最も効率的です。

【テンプレートの入手方法】

経済産業省の「ローカルベンチマーク」特設サイトからダウンロードできます。

経済産業省 ローカルベンチマーク 特設ページ 

特設ページには、エクセル形式のテンプレートや記入例、解説動画などが用意されています。

【テンプレートの主な構成】

テンプレートは大きく分けて、以下の2つのシートで構成されています。

  • 非財務情報シート(定性情報): 事業内容、ビジネスモデル、企業の見えない強みなど、数字では表しにくい情報を記述します。
  • 財務情報シート(定量情報): 企業の過去からの決算データなどを入力し、主要な財務指標を自動で算出します。

これら2つのシートが連携し、企業の全体像を多角的に「見える化」できるようになっています。

【非財務情報シート】の特徴

非財務情報シートは、企業の「事業の強み」や「成長性」を金融機関に効果的に伝えるための要となる部分です。単に強みを羅列するのではなく、強みの真因となる取組みや仕組みを具体性を持って記述することが求められます。このシートは主に、企業のビジネスの全体像を把握するための「業務フローシート」「商流シート」と、それらを網羅した「4つの視点シート」で構成されています。

【非財務情報シート】の具体的な書き方・記入例

1. 業務フローシートの書き方と記入例

業務フローシートは、貴社が顧客に対してどのように価値を生み出していくのかを工程ごとに示すものです。製品やサービスが顧客に届くまでの流れを可視化することで、どこに強みや強みの源泉となるポイントがあるのかを明確にします。

記入例のポイント:

  • 業務フローごとに「誰が」「何を」「どのように」行い、どのような「価値」が生まれているのかを具体的に検討します。
  • 特に力を入れている業務の流れにおいて、こだわり・工夫、差別化ポイントがあれば強調します。

(1)書き方

引用元:「ローカルベンチマーク ガイドブック 企業編」経済産業省

(2)記入例

引用元:「ローカルベンチマーク ガイドブック 企業編」経済産業省

2. 商流シートの書き方と記入例

商流シートは、貴社の事業におけるお金やモノ、情報の流れを取引先との関係性の中で示すものです。サプライチェーンや顧客との関係性を図式化することで、貴社のビジネスが市場の中でどのように位置づけられているかを理解しやすくなります。

記入例のポイント:

  • 主要な仕入れ先、販売先、その他関連企業(例:物流会社、システム会社)を図に落とし込む。
  • それぞれの取引先との関係性や、貴社にとっての重要性を記述。選ばれている理由、選んでいる理由を検討する。

(1)書き方

引用元:「ローカルベンチマーク ガイドブック 企業編」経済産業省

(2)記入例

引用元:「ローカルベンチマーク ガイドブック 企業編」経済産業省

まとめ

本記事では、ローカルベンチマークが単なる企業の「健康診断ツール」に留まらず、金融機関との対話を深め、貴社の事業の可能性を最大限に引き出すための戦略的なツールであることを解説しました。

そして、ローカルベンチマークを有効に使用していくために、「マニュアル その1」として、今回は「①業務フロー、②商流」の具体的な書き方、記入例をご覧いただきました。

次回は、「マニュアル その2」として、「③4つの視点」の書き方、記入例を説明いたします。

自社でローカルベンチマークを丁寧に作成し、その内容を金融機関に積極的に伝えることで、融資の獲得はもちろん、金融機関からの有益なフィードバックを得て経営改善に繋げ、ひいては事業の持続的な成長を実現する強力な推進力としていけるようにまずは基本となる使い方を丁寧に説明します。

ローカルベンチマークを最大限に活用し、貴社の未来を拓く第一歩を踏み出しましょう。


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この記事を書いた人

こんにちは。セイコウ経営 代表 中小企業診断士の藤原 正幸と申します。
この度、「事業性評価ツールマガジン」に参加させていただくことになりました。
私は、知的資産経営の考えをベースにしながら、「企業の強みを掘り起こし、顧客提供価値を高めることで成長につなげ、成長の喜びを共有する」ことを使命として取り組んでいます。
ここでは事業性評価を進めるために少しでも貢献できるように情報発信してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

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