総合評価により評価書全体のバランスが保たれる
これまでにもご紹介してきたとおり、「中小企業技術・経営力評価制度」では、複数の評価項目に対して点数が付与され、その平均点に基づいて最終的な「総合点」が算出されます。
この総合点は単なる平均値ではありません。むしろ、評価全体における“バランスの司令塔”のような役割を果たしており、「中小企業技術・経営力評価制度」という事業性評価ツールが、企業の実態を過不足なく表現するための重要な基準となっているのです。
中小企業技術・経営力評価制度の総合評価
ここで、私自身が多くの評価書を作成・確認してきた経験をもとに、「総合評価の点数が企業像とどう対応しているか」を整理してみましょう。
技術評価3+ 全体評価3+
「優良企業」として記念品が会社に贈られます。
業績が安定して高水準で、かつ同規模同業種のお手本事例として紹介できるレベル。
技術評価3+ 全体評価3
業績は好調ですが、同規模同業種のお手本事例とまでは言えないレベル。
もしくは、何らか懸念がある会社。
技術評価3 全体評価3
業績は黒字からちょい赤字までの会社。
全体として、格別良いとも悪いとも言えない普通の中小企業です。
いずれかが3-
業績は赤字続きで再生局面にある会社が多い。
また、どこかの項目が明らかに弱点と言える会社。
私自身が評価書を作成する、あるいは作成された書面を確認・判断する際には、これらの評価バランスを重視して読み解くようにしています。
評価には評価者のバイアスが必ず生じる
評価書は中小企業診断士等の専門家によって作成されますが、どれだけ経験豊富な専門家であっても、完全な客観性を保つのは極めて困難です。人間である以上、評価には必ず何らかのバイアス(偏り)が入り込みます。
たとえば、零細企業が地道に取り組んでいる改善活動に対し、かつて大手企業で高い水準の改善活動を経験してきた評価者が「この程度では全く不十分」と判断し、過度に厳しい点を付けてしまうことがあります。これは特に、評価者が強い専門意識や価値観を持っている項目において発生しやすい傾向です。
一方で、現場で働く社長や従業員の熱意や人柄に心を動かされ、「この会社は応援したい」という思いから過剰に甘い評価をしてしまう場合もあります。
さらに、「ハロー効果」と呼ばれる心理的バイアスも影響を及ぼします。これは、特定の目立つ特徴——例えば「社長の人柄が良い」「社屋が立派」など——によって、他の項目の評価も引きずられてしまう現象です。この結果、評価書全体が必要以上に「辛口」または「甘口」になってしまうリスクがあるのです。
私もこれまでに、業績は健全であるにもかかわらず極端に低い評価となっていたケースや、逆に財務面での危機が明白にも関わらず高い評価を受けていた事例に直面したことがあります。こうした評価結果は、当然ながら企業の実態を正確に反映したものとは言えません。
総合評価は“バランス修正のリミッター”
そこで機能してくるのが「総合評価」というリミッター(制限装置)です。
例えば、各項目で厳しく評価した結果、総合点が「3-」となった場合、それを見た評価者自身が「いや、ちょっと待てよ」と立ち止まるきっかけになります。「この企業は毎年きちんと黒字を出しているのに、本当にこの点数で妥当だろうか?」と、自問するわけです。
逆に、評価が甘くなりすぎて「3+」という高得点が出た際にも、「本当に毎年赤字で債務も積み上がっているのに、これほどの高評価で良いのだろうか?」と見直しが行われることになります。
このように総合点という存在は、評価者が冷静さと整合性を取り戻すための「調整役」として非常に大きな意味を持っているのです。
また、実際に企業に赴いていない第三者から見て、「この評価は客観的に見れているのか」と指摘する上でも有効な役割を果たします。
「業績を無視した評価」には限界がある
一部には、「業績が悪くても企業努力を定性的に評価すべき」という意見もあります。たしかに、企業の努力や未来への可能性を認める視点は重要です。
しかし、私は明確に「事業性評価は業績とリンクすべき」だと考えます。数字で見たときに評価が伸びないからといって、数字を無視して褒めるだけの評価は、本質から目を背けたものに過ぎません。
事業性評価は、たしかに「業績だけ」で評価を完結すべきではありません。ただし、業績という“結果”を出している背景には必ず「強み」が存在しているはずです。
また、逆に業績が芳しくない企業にも、まだ見ぬ強みが潜在している場合もあります。
しかしその強みが活かしきれず、何らかの弱みや判断ミスによって、現在の業績につながっている可能性が高いのです。
だからこそ大切なのは、「なぜ今の業績なのか」を把握することです。
業績が良いのは、なぜか。
業績が悪いのは、なぜか。
この「なぜか」に続く、「なぜなら〜」の部分を評価によって深掘りすることこそが、事業性評価ツール本来の目的であり、その活用価値なのです。